ファーストコンタクト②

 産休&育休中の晶さんは普段なら伸ばさない髪を伸ばし、普段なら滅多に履かないスカートなどを履いてオシャレを楽しんでいるらしい。母親だけが子育てをする時代ではない、子育ては夫婦の共同作業だと思う。さらに周囲の助けがあれば言うことなし。


「いやぁ、男装がデフォルトだけに驚きやわ」

「似合うでしょ? 僕もびっくりなんですよっと」


 赤ちゃんを抱っこして連れてきた夫の薫さん曰く、晶さんの格好はリツコさんを参考にしているらしい。言われてみれば仕事に行くリツコさんと似た系統の服装だ。薫さんは相変わらず女の子に見えるので、二人が並んでいると女性同士のカップルに見える。夫婦なのにBのLに見えたり百合に見えたり、じつに愉快な二人の間に生まれた楓君は二人の良いところを受け継いだらしい。


「おおっ? 晶さんに似て凛々しいな」


 薫さんに抱っこされた赤ちゃんは美男美女の子供だけあって整った顔をしている。


「ほ~ら楓、大島のおじさんだよ」

「うきゃっ!」


 赤ちゃんの名は晶さんが妊娠中に食べていたメープル味のお菓子由来の『楓』だ。これは生まれる前から決まっていた。


「さ、暑いから中で涼んだ涼んだ」


 晶様入り待ちの奥様方から「え~っ」と落胆の声が上がった。今回の主役は晶さんと薫さんではなくて楓君、母親の晶さんは男役トップスターだが幼児の楓君は奥様方が目を奪われる完璧で究極のアイドルなのだ。


◆        ◆        ◆


「にゃ~、あかちゃんかわいい~」


 楓君を見た途端にレイはメロメロになってしまった。『高嶋署の白き鷹』の遺伝子は楓君に受け継がれたようだ。


「とと、レイちゃんもあかちゃんほしい!」

「う~ん、レイがお行儀よくしてたらコウノトリが来るかもな」


 もう一人子供が欲しくて励んでいるのだが、なかなか上手く行かないのだ。医者が言うにはレイが生まれただけで奇跡らしいのだが。


「とと、おなかいたいの?」


 表情に出ていたのだろう、レイが心配そうに俺を見つめている。大丈夫だと言うとレイは再び楓君の元へ行った。


「わぁ、ずっしり重~い」

「でしょ? やっぱり男の子よね~」


 楓君を抱っこしたリツコさんがチラリとこちらを見た。顔は笑っていても目が笑っていない気がするのは気のせいだろうか?


「レイちゃん、ウチの楓と仲良くしてね」

「うん、楓ちゃんかわいい……チュッ」


 楓君の顔を覗いていたレイが突然楓君にチューをした。これは大変由々しき事態である。


「こらレイっ! お前にはまだ早い!」

「ミャ~!」


 時代錯誤な考えかもしれないが女の子からチューするなんて何たる破廉恥な!


「あらあら、レイちゃんは楓のお嫁さんになるのかな?」


 晶さんの冗談が冗談に聞こえない! そんなさっさとお嫁に出してやるものですか! ええ、ずっと我が家から出しませんとも! モトコンポと一緒で箱入り娘ですぜ!


「アカンアカンアカン! そもそもレイはリツコさんそっくりやからお料理下手で大酒のみになるで! 絶対にお嫁さんにしたらアカン!」


 大騒ぎしていたら楓君が泣いてしまった。よしよしとあやしていてるリツコさんは何かを察したのか彼のお尻を少し撫でて「あら? おしっこかな? ウンチかも」と言った。


「そろそろおむつかなって思ってました」


 薫さんはバッグからオムツ交換セットを取り出した。


「ママたちはお話してて、僕とおじさんでオムツを換えるから」


 このあと楓君のオムツを外した俺は「この子は将来女性を泣かすに違いない」と確信した。この子が思春期になったらなるべくレイから遠ざけようと決意をした。

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