変態野郎(中島)の悩み
部品を引き取りに来た常連の中島曰く「最近のバイクは触りにくくて仕方がない」らしい。排気ガス規制によるインジェクション化が主な理由だがそれだけではない。
「古いオートバイに比べると分解・清掃・調整できる部分が少ない反面、不具合が出るとユニットごと交換する部分が多い。整備ってよりアッセンブリー交換、でもって構造的に改造を受け入れてくれない」
中島が言う通りインジェクション化されてからの原付はコストダウンのためか分解不可能で修理はアッセンブリー交換でする部分が増えている。
「今回直してるジャイロキャノピーはボアアップやシリンダー修正を考えた設計はしていない。精度は良い無駄も無い、そやけど改造を受け入れる余裕もない」
俺も調べたのだが、中島も調べたところ排気量アップしてもせいぜい数㏄。
「大金をかけたところで性能アップは微々たるもの、限られたキャパシティの中でセッティングしたところで走り出しが良くなって最高速が落ちるかその逆」
プーリーやウェイトローラーでセッティング変更したところで排気量四十九㏄のエンジンで重さ百キログラムオーバーの車体を動かすことに変わりない。絶対的な性能が変わらないのだからどの部分に性能を割り振るかになる……というのが中島の考えだ。
俺もそう思う。
「やっぱり性能を底上げするのは排気量アップや、数㏄では大幅に走りを良く出来ん。車体をミニカー基準から外すための排気量アップや。構造的に大幅なシリンダーボーリングは無理、排気量アップが実質封じられてるから大幅な性能は無理や」
中島が言うように四ストジャイロシリーズの排気量アップは、性能を上げるためではなくて側車付二輪車登録するための排気量アップだと思う。
「どうしても三輪バイクが必要やったら我が家にはXがある。何台も三輪車があっても乗り切れんからキャノピーは整備後に転売する」
中島は少し前にジャイロの『X』を購入している。他に数台の小型オートバイをもっているので三輪バイクを増やしたところで体は一つ。乗車頻度が下がるのだろう。
「つーことで、もしもキャノピーを欲しがる妙齢で見た目麗しい独身のお嬢さんが居たら紹介してくれ」
そんな都合よく見た目麗しい妙齢の女性がジャイロキャノピーを買いに来るはずがない。そんな女性は居ない、居てもお前に紹介なんてしない。
「さて、部品が揃ったことやからっと」
中島は部品が入った箱を車に積み「盆休みで一気に組み上げるで~」と帰っていった。中島は青少年の健全育成を阻害する有害な変態だが、国家資格を持つ元ディーラーメカニックでもある。仕事としての整備から離れた今は純粋な趣味として整備を楽しむことだろう。
◆ ◆ ◆
「それにしても、ナイトハルトラバーまで換えるとはなぁ」
ホンダジャイロシリーズがユーザーに受け入れられた要因の一つにスイング機構があると思う。スイング機構があるから通常のスクーターと同様に車体をコーナーの内側に傾けることが出来る。
「キャノピ-は屋根があるから負担が大きいんかな」
スイング機構の要となるナイトハルトラバーはゴム部品だから経年劣化する。交換するとシャキッとした走りになると聞くが、分解に手間がかかる事も在ってよほどのマニアか不具合が出たかでなければ交換はされない様だ。ウチで代車やリツコさんのお買い物に使っているジャイロXはスイング機構の分解整備まではやっていない。
「時間があるプライベーターの特権やね」
中島の言う様に見た目麗しい妙齢の独身女性がジャイロXを買いに来る可能性は極めて少ない。世の中がそんな上手く出来ているなら独身中年男性なんて今頃絶滅しているはずだ。
「ま、全く無いとも言い切れんが……な」
数年前にお買い物用の小さなオートバイを買いに来た
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