二〇二三年 四月某日
結婚して新年度になる度に私の実家では家族写真を撮っていた。両親と祖母、そして私の四人が写っていた。それが父が亡くなり続いて祖母も亡くなり二人だけに、そして母が再婚してからは私一人。一人では寂しいからと社会人になって数年間はゼファーちゃんと一緒に撮っていた。
「は~い、撮るよ~」
「レイ、あれ(カメラ)を見て『ニーッ』
「ニーッ!」
ファインダー越しに見える夫と娘は私が幼なかった頃の実家に似ている。元気な私は幼いころの私と瓜二つ、力一杯『ニーッ!』とする様子がお転婆だった私の幼少期に似ているのは強烈な遺伝のせいだろう。見た目と元気は私に似ていても大丈夫、出来ればお料理の才能と手先の器用は夫に似てほしい。
「中さんっ」
「ホイ来た」
右腕にレイを抱えた夫の横へ並んだらカメラがパシャリとシャッター音を立てた。私の年代だと『写真』と呼んでしまうけど、今の子たちはデジカメ世代、『写真』ではなくて『画像』や『データ』と呼ぶのが一般的なんだって。
「なんか『悔しいですっ』みたいな顔ね」
「ニーッ!」
「ま、面白いから結婚式の時にでも」
夫のいう通り、この画像はとても面白い。レイちゃんの結婚式でこの画像をスライドショーで使っちゃおうっと。
◆ ◆ ◆
四月は新年度の始まり、税金の計算も今月から始まる。ウチに限らずオフシーズンに購入したオートバイを新年度スタートに合わせて登録して乗り出すお客さんは多い。
「税金からお給料をもらってる身で恐縮ですけどね」
「公務員かて税金は納めてる、問題ない」
完成した三月に登録しても四月に税金の支払い通知が来る。三月に登録すると一か月足らず乗っただけで一年分の税金がかかるのだ。お役所仕事の固さというか融通の効かなさというか、もうちょっと何とかならんのかと思う。
「慣らしは一週間くらい、極端にブン回したり低回転でグズらせたりせんといてな」
乗り出しの慣らし運転について説明しようと思ったのだが、よく考えれば天美さんはプロのライダーだ。釈迦に説法だったかもしれない。
「じゃあ、慣らし運転がてら琵琶湖を一回りしてきます」
「ご安全に」
オーナー自身が組んだ車体と俺が組んだエンジン。また一台小さなバイクが路上に躍り出た。
「季節は春、何をするにもよい季節や」
ここは滋賀県高嶋市、小さなオートバイが走り回る田舎町。名物が無い、遊ぶ場所が無い。就職場所も何も無いと不満を漏らす奴は多いけれど、俺はこの小さな町が大好きだ。俺は体が続く限りこの町で商売を続けるだろう。
今年も初心者ライダーが店を訪れる。オートバイ乗りはカブに始まりカブに終わる……かどうかはわからないが、俺は若者に問う。
「いらっしゃい、どんなオートバイをお求めかな? 条件を聞こう」
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