二〇二三年 一月一日

 晶さんのご懐妊やストーカー騒動などなど、いろいろな出来事が在った二〇二二年が終わり、家族三人揃って健康でめでたく二〇二三年の正月を迎えることが出来た。


「レイ、リツコさん、お雑煮のお餅は何個?」


 今年の正月は浅井夫妻は出産間近とあって晶さんの実家へ行き、レイの面倒を見てくれている志麻さんは政さんと一緒に秘境の温泉宿へ。金一郎も明日香さんを連れて旅行へ出かけている。来客がないと静かなものだ。


「ラッキーセブンの七つ」

「レイちゃんもっ!」


 大晦日は歌番組を見ながら年越し蕎麦を三杯も食べたリツコさんは年明け早々から食欲旺盛だ。レイは目覚めた時から超ご機嫌、何やら良い夢を見たらしく朝から元気いっぱいだ。


「よしよし、元気が一番、元気があれば何でもできる」

「何度もできる?」


 ちなみに昨夜のリツコさんは性欲も旺盛で、レイが寝た後で猫から猛獣になり(以下カクヨム規定により自粛)で大変だった。おかげでリツコさんは艶々になり、俺は真っ白に燃え尽きた。


「リツコさん、レイの前では止めてな」

「レイちゃんげんきっ!」


 とはいえ、幼児がお餅を七つも食べられるわけがない。あらかじめ切り分けておいた小さめの餅を七つ鍋に入れて煮込む。我が家の雑煮は特に具など無い味噌味の雑煮だ。


「にゃふふ~ん、お雑煮♪」

「おもち~♪」


 我が家の女性陣はお餅が大好きだ。レイは焼いたお餅にお砂糖をつける甘党で、リツコさんは付きたてのお餅を大根おろしで食べる辛党(?)だ。レイは昨年末に初めて餅を食べて以来、俺の顔を見るたびに「おもち?」と聞いてくるほどお餅がお気に入りだ。


 レイは今年の春から幼稚園へ通う。日に日に大きく育つのは嬉しいのだが、育てば育つほどリツコさんに似てゆく気がしてならない。特に何かを食べるときに大きく口を開けると「にゃあ~ん」と言ってしまったり、夢中で食べると無意識のうちに「にゃふにゃふ」と声を出してしまうあたりがそっくりだ。


「にゃふにゃふ」

「レイ、にゃふにゃふ言うて食べたらアカンで」


 我が家へご飯を食べに来ていた頃のリツコさんは『にゃふにゃふ』とか『にゃごにゃご』なんて発せず静かにお行儀良く食べていたはずだ。レイはにゃふにゃふとお餅を食べるリツコさんを指さした。


「ママもいってる」

「ママはな、もう直らへんのや」


 もしかすると結婚前のリツコさんは猫を被っていたのかもしれない。


「にゃふ? 何?」

「レイ、ママみたいになりたい?」


 お雑煮を頬張りつつキョトンとしたリツコさんを見たレイは、少し顔をしかめて「なんかやだ」と答えた。

 

 ◆        ◆        ◆


 お雑煮を食べてからリツコさんはコタツで吞み続け、俺はレイと一緒にテレビを観たり遊んだり。どうしても仕事モードになってしまうので作業場にはいかない。


「とと、レイちゃん夢みたの」

「初夢やな、どんな夢を見たんや~?」


 レイは元気いっぱいに「おひめさまになる夢!」と答えた。


「レイはおひめさまになるんか」

「レイちゃんがおひめさまで、にーにがおうじさまっ!」

 

 夢なんてものは突拍子のない話になるもので、実際に晶さんが王子様になれば……いや、ある意味今でも王子様だがパートナーが女性となれば実質百合になってしまう。


にーに晶さんが王子様か、ある意味怖~い夢やなぁリツコさん」

「晶ちゃんが王子様……ねぇ」


 リツコさんは「もしかすると叶うかもしれないわねぇ……」とコップ酒を煽るのだった。

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