週刊『原付を作る』の問題は?

 書類付きのフレームを買って好みの原付バイクを組み立てるのは初心者にはお勧めできない。同じ車種でも年式やグレード違いで部品が違う場合があるからだ。


「私の後輩でそれをした人が居たんやけど、フレームが不正打刻やってん」


 不正打刻のワードを聞いた天美さんの目つきが変わった。フレームナンバーの不正打刻は盗難車の転売で多く使われる手段だからだ。道路運送車両法第31条により禁止、要するにやっていけない事なのだ。


「ええ、それは仕事柄よくわかってますから」

「俺も何回か引っ掛かった事があるで」


 フレームの打刻をやり直す、例えば元のフレームナンバーのままで新品フレームに交換したい場合は少し面倒な手続きが必要だ。最近はやっていないが元々のフレームナンバーを無効にしたと証明する石刷りと廃車証が必要だったはず。廃車証明とタガネを打って無効にしたフレームナンバーの石刷りをメーカーに送るとメーカーが打刻済みの新品フレームを送ってくれる。車検の必要な排気量四〇〇㏄以上のオートバイだと陸運局で『職権打刻』ってパターンもあるとか。


 要するに個人や俺たち販売店がやって良い作業ではないのだ。


「後輩が手に入れたフレームが不正打刻で部品取り車がフレームナンバーを削り落とした盗難車やってん、そこからウチのチームはポリに目をつけられて難儀したんやで。警察と抗争したし、うちのチームではバイク泥棒は御法度やったんやで」


 岡部さんは「あの頃の私は若かった」と言っているが、過去に何かが在ったんだろう……っていうか抗争ってなんやねん。


「年式とかグレード違いで部品が合わんかったりするで、形になった車体を買って悪いところを直す方がトータルで安上がりやと思う」


 ウチの常連でも何人かいるのだ、フレームを買って自分好みのモンキーやゴリラを組んだ奴が。その辺りを含めて天美さんに説明しようと思う。


「昔はフレームを買ってコツコツ部品を買って組むと安くで一台組めたけど」

「組めたけど?」


 少し前ならスワップミートや部品交換会、あとはフリーマーケットを巡ればそれなりに部品が揃った。もっと前なら解体屋へ行けばポンコツと言う名のレストアベースが手に入った。


「ネットオークションが出始めた頃から悪い奴らが出てきてな、最近はおっちゃんも苦労してるんや。画像で見えん所が壊れてたり送料がバカ高かったり……」


 天美さんは「送料か……盲点だったな」と考え始めた。この考える姿が憂いを帯びて何とも女性を惹きつけそうというか……。


「その辺りを含めてキチンと形になった一台を買うか、貯金して店で買うかがお勧めなんや。そもそも個人売買に限らず中古バイクは色んな意味で売主の色に染まってるからなぁ」


 どこかから「や~ん、私も天美さんの色に染めてぇ~♡」と聞こえるが無視しておく。オバハンにモテるのは羨ましくないけど、下手な男以上にモテる天美さんにチョットムカつく。


「悪い事言わん『急がば回れ』や、慌てず貯金しつつ良い出物を待つ。これに尽きるで」


 商売っ気が無いと思われても仕方がない。儲けは大事だが若者に無理をさせないのも大事。趣味で身を滅ぼしては何にもならないし、無理をするのも良くない。


「試しに何か月か徹底的に自炊をして無駄使いを止めてみ、コンビニに行かんだけでビックリするほど節約できるで」


 コンビニは便利な反面割高な気がする。俺の提案に天美さんは「わかりました」と答え、岡部さんはそんな天美さんを見て「や~ん、かっこいい~♡」と萌えるのだった。


「あ、そうそう。もしもフレームから組んでみたいなら―――」


◆        ◆        ◆


 ある伝説の男が『元気があれば何でもできる』と言っていた。世の中すべてが元気で解決する訳が無い。それでも元気は大切だ。


「元気があれば何度も出来る……中さん、抱っこ」

「リツコさん、『何でもできる』やで」


 まだまだ暑い日が続くが徐々に季節は進んで秋の雰囲気が漂うようになった。秋の訪れとともに素っ裸で寝ていたリツコさんがパジャマを着て俺の布団へ入ってくる様になった。


「で? 晶ちゃんの後輩はバイクを買ったの?」

「とりあえずフレームをご購入、来週はフロントフォークとハーネス」


 車種こそ限られるが我が大島サイクルには書類付きフレームの在庫がある。新品を取り寄せ可能なフレームはメーカーに書類を送って新品で、取り寄せ出来ない場合は錆び止めをして残してある。


「儲かるの?」

「損はしない」


 整備で使おうと残してあるが在庫は在庫、倉庫に有るだけでは儲けにならない。独身の頃は趣味がてら休日に組み立てていたこともあったが、最近は家の事もあるから手つかずでホコリを被っていた部品だ。


「倉庫の片付けになるからエエんと違う? 晶さんの後輩やから倉庫へ入れても悪さはせんやろう」


 ウチの倉庫から部品を引っ張り出して一台組むなら送料は要らない。カスタムしたいなら現物を見て仮組してから使うか否かを決められる。ウチとしては在庫部品を買い取ってもらえるから助かる。もちろん組み立て場所の提供もするしどうやって組み立てるかわからない場所は手助けする。天美さんにとっても悪い条件ではない。


「なんだか『週刊ミニバイクを作る』って感じね」

「そうやな、もちろん商売やからタダでは無理やけど」


 そろそろ眠りたいのだがリツコさんのおしゃべりが止まらない。


「なぁリツコさん、そろそろ寝よ?」

「やだ、もっとお話しする。それとも仲良しする?」


 幸いなことに今夜の枕は『YES/YES!!枕』ではない。


「仲良しは辛いかなぁ……その代りに……」


 少し強引だが、とある仲良し夫婦のエッセイで読んだ手段を使おう。パジャマの裾から手を入れてリツコさんのしっとりなめらかな肌をマッサージする。


「やん……そんな所をナデナデしちゃ嫌」

「体は正直やで、ほら……」


 リツコさんが体を捩るが俺は手は止めない。おへそを中心に『の』の字を書けばリツコさんはアッと言う間に……。


「ああっ……もうダメッ……いくっ……」


――――― 今夜は不合体トイレに行く!―――――


 よし、今のうちに寝よう。

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