週刊『原付を作る』

 滋賀県警高嶋署では数年前から何故か見た目麗しく凛々しいイケメン白バイ隊員が配属され続けている。数か月前に高嶋署に配属された天美友希もそのうちの一人だ。妊娠が判明した浅井晶に代わり高嶋署管内の交通違反に目を光らせる凛々しい姿はウルフカットの髪型から『高嶋署のあおき狼』と呼ばれ、女性からの支持を得ていた。


 今や『男装の麗人』もしくは『白バ(イ)に乗った王子様』は滋賀県警高嶋警察署の名物。天美友希は『高嶋署の白き鷹』『ワイルドの君』に続くイケメン女子白バイ隊員の第三弾である。


「乱暴な言葉使いの女の子は……嫌いだな」

「や~ん、この人も格好良い~♡」


 盗まれたシャリィを取り戻した岡部さんだったが、シャリィには何か所か傷や破損個所があった。岡部さんは若い頃にからか時折物騒な物言いをすることがある。さっきも「アタイの愛車を傷つけた奴は鎖で縛ってバイクで引きずったあとで×××残虐行為る!」と、とんでもない事を言っていた。


※あまりにひどいので伏字にした。


 そんなところへ出くわしたのが『高嶋署のあおき狼』こと天美友希さんだ。優しい王子様キャラの晶さんともスポーツマンキャラの霧島さんとも違うクールなタイプのイケメン、ただし女性だ。本当の男性よりも親しみやすく女性の気持ちがわかるイケメンキャラ『男装の麗人』が嫌いな女子は居るだろうか? リツコさんやご近所の奥様や婆ちゃんたち曰く『そんなの居ない!』らしい。俺にはさっぱりわからん。


「ところで、割れたウインカーレンズは交換せ」

「おじさんは静かにしてて、乙女のときめきタイムを邪魔しないで」


「乙女って……それに『おじさん』って言うけど俺の方が年下やで」

「なんやてっ!」


 修理の相談をしたいのにかぶり気味で止められてしまった。しかも年上の女性にオジサン呼ばわりされてしまった。しかも『乙女』のワード入りと来たもんだ。なんだか納得いかない。


「私は……整備不良のバイクが……キラーン☆嫌いだな」

「直す! 新品に交換してっ!」

「早っ!」


 さっきまで「新品部品は高いし、ボンドで直らんやろか?」とか言うから百円均一のお店で売ってるUVレジンでくっ付けてから模型用塗料で塗ろうかなんて相談していたのに、鋼の如く固い主婦のお財布をこじ開けるとは恐るべしイケメン女子。


「っていうか、立場上『ご飯粒でくっつければ?』なんて言えないでしょ?」

「や~ん、お兄さんの言うとおりにする~♡」


 岡部さん元総長は『お兄さん』と言っているが天美さんは女性だ。噂によると『高嶋署の白き鷹』が現れて以降高嶋署管内では女性ライダー及び運転手の交通マナー向上が甚だしいんだとか。県警本部がイケメン女子ばかり白バイ隊員として送り込んでいるのはその辺りが原因らしい。


「部品は今週中に来るとして、天美さんのご用件は?」


 岡部さん元総長が「私を癒すため」とか言っているのをサラリと流して天美さんは「ボロでイイから何か出物が無いかなって」と言って現状販売・部品取り車のコーナーを見つめた。


「最近は良い出物が無いんや、某国のせいやな」

「これって動くようになるの?」


 そもそも人間が作ったものを人間が直せないはずがない。問題は手間と時間だ。プライベーターが趣味で直すならともかく、さんざん手間暇をかけて売値が安ければ商売が成り立たない。


「直らんバイクは無いよ、ただ直す手間と売値が直結せんから現状販売してる」


 相場が上がったところで中古の原付スクーターが十万円では売れない。人気車種で後年式ならまだしも自転車代わりの移動手段として『とりあえず動く奴』を求める層に売れるのは乗り出し価格が五万円までのお求めやすい車体だ。


「ねぇおじさん、レストアって全部分解して直しながら組み立てるんだよね?」

「ん? 全部ではないけどそんなところやな、何で?」


 どんな機械でも分解しなければ修理できない。俺は一部分だけ分解して直すのが『修理』で、ほぼ全部を分解して修理するのが『レストア』だと思っている。どこまでが修理でどこからがレストアになるのかはよくわからない。


「車体から部品を外して綺麗にして、でもって組み立てるんでしょ?」

「まぁそうなるなぁ」


 修理やレストア復元修理は車体から外した部品を点検して清掃、場合によっては交換や塗装をして再び組み立てて走行可能にするのが一般的だ。


「だったらフレームを買ってそこに部品を組み付ければ分解する手間が省けるんじゃないかなって思うんだけど」


 土台まで分解して再び組み立てるのなら、何も付いていないフレームに好みの部品を取り付けていけば理想のオートバイが組み上がる……と天美さんは思っているのだろう。間違っていないが大きな問題はある。説明しようとする俺を押しのけて「それにはリスクがある」と岡部さんが語り始めたのだった。

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