ストーカー(終) スペックじゃないの♡
国立大学に現役合格後に銀行へ就職。私を狙っていた『自称・高スペック』のストーカーは高嶋市から居なくなりましたとさ、めでたしめでたし。
「高スペックやのに挫折するんやなぁ……」
ストーカーのFaceboxアカウントを中さんは「今の時代やと高卒は低スペックになるんか?」と言いながら見ています。私に言わせればお料理が出来てご飯も作れる中さんは十分に高スペックだと思うんだけどね。
「誰だって挫折はするわ」
「リツコさんは挫折したことある?」
自慢じゃないけど私は料理が苦手。お菓子は何とか作れないことないんだけど、食事の方は全然ダメ。お料理に挫折したのは大学に入学……いや、小学校の家庭科の時には挫折してたかな?
「たくさんあるよ、でもそれを乗り越えて成長するのが人間じゃないかな?」
中さんは「そうか」と言ってパソコンの画面を見て言いました。
「カタログを見た感じでは良さ気なバイクてあるやん、でも乗ってみると扱いにくくて乗れたもんじゃなかったりするやろ? この野崎って奴はそれに近い気がするなぁ」
この人は何でもオートバイで例えます。バイク屋さんだから仕方がないよね。
「じゃあ私はオートバイに例えると?」
「ん~っと、難しいな」
中さんは少し考えて「リツコさんはオートバイじゃなくてライダーやと思う」と答えました。よく考えると最近は中さんに乗ってばかりな気がします(笑)
「中さんはカブだよね、でもゼファーちゃんにも似てる」
「カブは何となくわかるけど、ゼファーみたいに厳ついか?」
ゼファーちゃんは一見すると厳ついネイキッドバイク。どことなく昭和のオートバイを連想させるクラシックっていうかノスタルジーっていうか懐かしさを感じさせるスタイル。でも乗ってみると優しくて頼りになる包容力のあるオートバイ。
「カブもゼファーちゃんも私を受け入れてくれてる」
どちらもカタログスペックでは同じ排気量のオートバイに負けている部分がある。でもカタログスペックなんて当てにならない。何馬力とか排気量が大きいとかでマウントを取る人が居るけど、買ったオートバイが乗り難くて合わない。その結果手放しちゃうライダーって結構いる。カタログデータやスペックが良くても乗りたくなくなるのなら何の意味もない。
「野崎って奴は学歴は良かったけど社会人としてはアカンかったんやな、記憶力は良かったけどそれだけ。文章なんか支離滅裂やし考え方も非常識や」
二〇二二年で五十代半ばだと、考えるよりも記憶力重視の学生時代だったはず。
「学生って枠では優秀かもしれんが社会に出ると通用せん。サーキットでは速いけど街乗りが辛いバイクみたいなもんかな?」
記憶力が良ければある程度は良い成績が取れる。でもある程度以上を目指す場合は記憶力以外に応用力とか洞察力とかが必要なんだよね。社会に出てからは社交性も必要だから勉強だけで友達も作らずって人は行き詰っちゃうんだよね。
「この手の人は妙なプライドが有るから危ないの、挫折したら立ち上がれない。グッと踏ん張る粘りが無いのね」
応用力が無いから突発的な出来事に対応できない。妙なプライドがあって人を見下すから教えを乞う事ができない。挫折したら立ち直れない。間違えた考えを修正することもできない。思い込みで暴走するから危ない。
野崎って人が裸足で歩いていたんだけど、私がスリッパを渡した時に好意を持ってると思いこんだからストーカーになっちゃったんだよね。
「プライドなんぞ捨てて汗を流して働けばよかったんや」
「つまらないプライドが許さなかったのね」
スペックこそ普通だけど粘りがあって多少パワーバンドを外して平気で走る寛容さ。何と言っても私を受け入れてくれるこの感じ。ライダーの未熟さを受け入れてくれるカブ、排気量のゆとりから余裕のある走りのゼファー一一〇〇。そして私がお料理が出来ないのを気にしない中さん。
高スペックかと言われると返事に困るけど、私はスペックなんて気にしない。
「ねえ中さん、大事なのはしっくり馴染む事よ。スペックじゃないの」
男もオートバイもスペックだけじゃない。一緒に居てしっくりくるのが一番良い。
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