踏み込まれたペダル

 ―――チェンジペダルを踏みこんだらな、クラッチが切れると同時にギヤチェンジも出来るんや、でもってペダルを放すとクラッチが繋がってギヤチェンジが完了。そしてスロットルを開ければクラッチが繋がってスピードが―――


 ベッドの上は凪からさざ波に、波は徐々にうねりを増して荒れ狂う大波になった。


「レイちゃん」


 もっと呼んでほしい。もっと抱きしめてほしい。もっと愛して欲しい。


「レイちゃん! レイちゃん!」


 楓ちゃんの声が徐々に大きくなる。そんな彼が愛しくてたまらない。私は彼を抱きしめる手や脚にギュッと力を込めた。


「レイちゃん! 放して! 離れなきゃっ!」


 どうして離れなければいけないのだろう。もっとくっついていたいのに。


「レイちゃん! 手をっ! あっ! 脚を放してっ!」


 離れようとする楓ちゃんをグイと引き寄せた。離れるなんてとんでもない。もっと密着したい、一つになりたい。


「抜けなっ! あ……あぁ……レイちゃん……あっ……」


 楓ちゃんの動きが止まったその時、私の体内で彼が脈打った。


 ―――このペダルを踏んだ時の『ガチャコン!』ってショックがアナログ制御って感じやな。いくつもの操作をワンアクションで終わらせたぞって感じがするなぁ―――


 どうしてだろう、私の中で何かが切り替わった気がする。


 ここは滋賀県新高嶋市、小さなモーターサイクルが走り回る田舎町。


 私はスーパーカブを愛した男の忘れ形見。そして……今はただの女。

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