140万PV突破 もう少し未来のお話
少し未来のお話・ピロートーク
父と母が紡いだ愛が私、晶おば様と薫おじ様の紡いだ愛が楓ちゃん。
「人生は織物。経糸と緯糸を織って歴史を作る……か」
男と女で愛を紡ぐ、男女の出会いは経糸と緯糸。経糸と緯糸を運命という名の織機で織って一枚の生地になる……そんな事を言っていたのは父のお客さん。父は「変態から近づかんよーに」と言ってたけど、カブやモンキーのエンジンをパワーアップさせることに関しては父以上のオジサンだった。
私が初めて楓ちゃんに抱かれたのは二年前、私と楓ちゃんは時折喧嘩をしたり仲直りをしたり、世間一般で言う彼氏・彼女の関係になって今に至る。この二年間で大きく変わったのは楓ちゃんのパン職人としての腕前。パン職人として彼が成長するのは嬉しい事だけど、それは同時に楓ちゃんが家を継ぐ日が近づいているという事でもある。
「レイちゃん、どうしたの?」
「ん……何でもない」
私たちは生まれたままの姿でベッドの上。激しく荒れ狂う波はおさまり
「あれから二年か、あっという間だね」
「楓ちゃんが修行をして二年が経ったわけや」
彼がパン職人として成長するのは嬉しいけれど、それはこの暮らしが終わりに近づくのを意味する。楓ちゃんの家は新高嶋市からそこそこ離れた大津市にある。今みたいに毎日会う事なんて無理だ。
「もうすぐおじ様の店を継ぐわけやな」
「そうだね、ねぇレイちゃん」
楓ちゃんがグイと私を引き寄せた。この二年間で楓ちゃんの腕は仕事で鍛えられ、職人筋と言えばよいのだろうか? ぐっと力を入れると筋張る魅力的な腕になった。
「レイちゃんも一緒にどう?」
「それってプロポーズ? 私は年頃やで、冗談じゃ済まんで」
プロポーズだとすれば嬉しい。だけど母をどうすればよいのだろう。料理下手で大酒呑み、そして寂しがりや。まるでニャンコみたいな母を置いて嫁ぐわけにはいかない。
「お母さんが心配や、酒に溺れんやろか?」
「いっその事、リツコさんもウチの近所へ住むってどうかな」
母は父と過ごしたこの街を離れられるだろうか? 職場への通勤はどうする? 大津市から新高嶋市まで通うに湖西道路を使うことが前提になる。ところが母が通勤に使うカブは湖西道路を走れない。クルマで通えばと思うが、母は壊滅的に四輪の運転が下手だ。
「通勤が問題かな?」
「定年までもう少しだもんねぇ」
クルマが駄目となれば電車となるけれど、寝坊をする母が毎日電車通勤できるだろうか? となると大型自動二輪のゼファーが登場となるけれど、これはこれで部品の手配やメンテナンス面で厳しい。ゼファーを処分して新車の二五〇㏄や四〇〇を買えばと思うけれど「ゼファーちゃんを手放すつもりは無い」と言うだろう。母も五十歳の大台になって体力が低下したのだろう、最近は「毎日の通勤で乗るにはチョッチ厳しい」とカブばかり乗っている。そんな母が毎日数十キロをオートバイ通勤できるだろうか、多分無理だ。
「それより楓ちゃん、もう回復したん?」
感触が徐々に固くなってきた。恥ずかしそうに「うん」と答える楓ちゃんの様子が何とも可愛らしい。楓ちゃんの顔はおば様に似ているけれど、可愛らしさはおじ様譲り。
「欲望に忠実なくらいがリアルでよろしい」
「レイちゃん……」
「ちょっと、ちゃんとつけ――――」
欲望に忠実になった楓ちゃんはキスで私を黙らせた。
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