130万PV達成 少し未来のお話

少し未来のお話・エネルギーステーション六城

 私が通った滋賀県立高嶋高等学校は全国でも珍しいオートバイ通学が可能な高校です。オートバイ通勤も可能で、今も勤務している母はリトルカブだけじゃなくてジャイロXやヤマハミント、たまに父のホンダゴリラや大型バイクのゼファー一一〇〇で通勤しています。


「大島さんは高嶋高校がここ(真旭町)に来てからの卒業生やな?」

「そうですね、六城さんは今都時代のOBでしたっけ?」


 高嶋高校は私が入学した数年前に新高嶋市真旭町へ移転しました。父が「シン・シンってアレみたいやな」って言うと母が「シン・高嶋高校よ」と答えて二人で笑っていたのを思い出しました。父が言っていた『アレ』が何かはよく解りませんが、母によく似たキャラクターが出ていたアニメだそうです。


「そうやね、今都学園のある所に建ってた頃やね」

「エネルギーステーション六城もその近所に在ったんですよね」


 今では信じられない事ですが、母が父と出会った頃の高嶋高校は今都市(当時は高嶋市今都町)に在ったそうです。今都学園は『今都市民による今都市民の神子みこ様が通う今都市のための学園』として設立された小・中・高校一貫の学園です。


 今都市のお子様は神様から賜った高貴なる存在『神子様』なんだそーです。そんな事を言ってるのは今都市の人だけで、他の町の人は『暴れ小熊』って呼んでますけど(笑)


「その頃は六城石油やったね、移転の時は会長さんや親父さんにはお世話になったなぁ……」

「いえいえ、エネルギーステーション六城がここまで成長したのは社長の手腕があってこそですよ」


 エネルギーステーション六城は高嶋高校の真ん前にあるエネルギー補給所です。高嶋高校が移転する前から在ったので『六城石油の前に高嶋高校が建った』が正しいかもしれません。昔の社名は『六城石油』でしたが、今はガソリンだけじゃなくて電動オートバイや電気自動車用のための急速充電器、水素自動車用の水素ディスペンサーも備えているので、六城社長が「ガソリン以外のエネルギーも扱うから」と今の社名に変更されました。


「学生の頃はお母さんのリツコ先生に憧れて、ここへ来るのに助けてもらったのが親父さん。事業展開でお世話になるのが娘さんか、何か縁を感じるなぁ」


 六城社長が高校生だった頃、母は男子生徒たちのマドンナだったそうです。あんな呑んだくれてダメ猫で、冬になるとコタツから出てこず電子レンジでカフェオレを温めようとしては爆発させる母が生徒たちのマドンナだったなんて信じられません。とんでもない寝相で爆睡している母を見せれば目が覚めると思います。


「私も御縁を感じます。社長と初めてお会いしたのは学生時代でしたっけ」

「赤ちゃんの時にも会ってたけど、その後はご無沙汰してたかな? 次に会ったのがガソリンを入れに来た時やね。お母さんそっくりで驚いたで」


 幸いな事に私は母のよい所だけ受け継ぎました。自分で言うのもアレですが、美人でスタイルも良い方です。お料理が得意で手先が器用なのは父から受け継ぎました。問題は学校の成績が悪かったことでしょうか。


「そんなに似てますか?」

「似てるなぁ、でも仕草は親父さんに似てるかな?」


 どうも中身は父に似たようです。得意科目も父と同じでした、社会科の成績は最悪。父も「俺の娘やからなぁ」と呆れていました。記憶力勝負の教科はダメでしたが祖母たちの家でホームステイしたおかげか英語はバッチリ、理数系は良くはないけど悪くもない。トータルすると並よりチョッチ下くらいの成績でした。同級生から「お母さんが先生やのに?」と言われたものです。


「それはさておき、スタンドの隣に喫茶店ですか? 何でまた?」

「それはね……」


 新高嶋市には『道の駅あどがわ』があります。更に北に行くこと二十キロ先には『道の駅追坂峠』があります。ところがこの道の駅、どちらもライダーの事を考えて作られたと思えません。


「安曇河の方は二十年以上前からオートバイは芸術会館側にあるテント、追坂峠は特にオートバイを停める場所の指定は無し。真旭にも道の駅っぽいのはあるけれど、県道三三三号線沿いだから国道一六一バイパスを通るライダーには使いにくいからね」


 六城社長もライダーなので、その辺りは気になっていたそうです。安曇河はテントからトイレや喫茶スペースが遠くて、のどの渇きを癒したり逆に用を足したりしている間にオートバイへ悪戯されないか心配です。追坂峠はどこにオートバイを停めて良いのかわかりません。


「そこでや、自分のオートバイを見ながら休憩できるライダーズカフェにしようかと思うんや。でもライダーだけに照準を絞ると経営が厳しくなりそうやから学生やご近所の奥様も気軽に来れる喫茶店にしようかと思う。どうやろ?」


 新高嶋市を通過するライダーは不便を承知で安曇河と追坂峠で休憩するか、蒔野町に在るライダーズカフェだけで休むかの選択で迷います。そこへ真旭町で休む選択肢が追加されるのです。「良いと思います」と答えると六城社長は「とりあえず土地を押さえておけば、あとは何とかなるでしょう」と返事をされました。


 繊維工業が盛んだった真旭町。繊維工業が廃れてからは官公庁と観光、そして教育施設の町になりました。徐々に地価も上昇中ですから、とりあえず土地を押さえておくのは悪くないと思います。

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