空冷シングルな二人⑤酒の入った男装の麗人はお好きですか?
空冷単気筒のオートバイでマイナーチェンジを続けてず~っと作られ続けたといえば、スーパーカブかな? え? ホンダ以外に無いのかって? ん~っと、私ならヤマハのSR四〇〇って答えるね。シンプルイズベストってやつかな? オートバイらしいスタイルで単気筒エンジンを積んだスリムなスタイルのロングセラーだったね。中さんも認めるって言ってたからいいバイクなんだと思う。ちょっとクラシカルな見た目が良いんだよね。私が生まれる前から在るバイクだから実際にクラシックだけどね。
「ところで、純ちゃんはバイクと一緒でスリム系の男の子が好きなの?」
オートバイの好みって男の子の好みと一緒だと思うんだよね。え? 私? 私は男っぽさっていうかな? ゴツイ感じなのに優しいのが好き。ゼファーちゃんって見た目の割にライダーに優しいの。うん、中さんに通ずるものがあるね。スーパーカブは皆を受け入れる優しさで出来ているけど、その中でもリトルカブは女性を受け入れる優しさがある。しかも私のリトルちゃんは私だけが乗るから中さんと一緒。私は乗られたりもしますけど何か?
「はい、お洒落だけど着飾っていなくてナチュラルな感じ……できれば笑顔の可愛い人が良いです」
男の子みたいな見た目だけど、やっぱり純ちゃんは女の子。お酒が入ってるせいかもしれないけれどちょっと赤くなって可愛い。そんな純ちゃんを弄りまくるのがほろ酔いの晶ちゃん。
「ふふっ……純はね、本当は可愛いんだよ。職場では気を張って荒々しいけど、鎖骨なんてほら……キレイだよ、純……」
「先輩、やめてください……手を入れないで……あぁ……」
ん~っとねぇ、晶ちゃんは結婚してからイケメンをこじらせてると思うんだぁ。多分だけど披露宴でタキシードを着てから何かに目覚めたんだね。今も純ちゃんを背後から抱きしめて胸元に手を……腐女子が喜びそうな光景だね。私は腐ってないけど。
「お願いだから耳を噛まないで……」
「今夜はこの浅井晶様が可愛がってあげる……」
二人を見ていると視力が上がりそうな気がする。まさに眼の回復薬だ。BのL好きの気持ちがチョッチわかった気がするんだけど、良く考えたらどちらもBじゃないよね? 百合だよね? リツコ大混乱(笑)
「う~ん、どう考えても中さんの知り合いではいないタイプだなぁ。私の知り合いは彼女が居るからダメだし、晶ちゃんの知り合いは?」
「居ない。薫さんなら心当たりがあるかも」
パン・ゴール常連さんの誰もが認める可愛い男の
「アタイが好きなのは男の子としての可愛らしさっていうか、魅力っていうか……先輩の旦那さんは女性的な可愛らしさだからジャンル違いだと思うんです……って先輩、そんなところをつままないで……」
「薫さんはね……可愛いのに下半身は猛獣なんだよ」
「何だこのBLトークは? とりあえず撮っとこうっと」
酔った純ちゃんって何だか可愛いな。呑みに行ったらモテそう。私は周りを酔い潰しちゃって恋愛に発展しなかったけど、お酒に弱い女の子ってかわいい。
「純、焦って今都の男にだけは捕まっちゃダメだぞ。今都の人間はゴミだ」
「はい……だから先輩……ああ……そこはまだ誰にも……」
これ以上二人の様子をお伝えするとた~いへん。一旦男性陣にお返ししま~す。
◆ ◆ ◆
「ヘクチッ!」
「ブエックショイッ!」
薫君の女の子みたいな可愛らしいくしゃみに対して、俺のくしゃみのデカい事。オッサンになると何をしてもうるさいってテレビのコメンテーターが言ってたから注意しないとな。
「何か俺たちの事を噂しているに違いない」
「最近の晶ちゃんは酔うと暴走するんですよ」
きっとリツコさんと晶さんがエロいトークで霧島さんを困らせているに違いない。
「霧島さんって、ちょっと前の晶さんに似てるよな」
「ですよね、以前の晶ちゃんと似てますね」
乗っているバイクのメーカーや排気量は違うが、どちらも空冷単気筒のロングセラーで有名な車種だ。そして、乗っているのがどちらも男装の麗人と来たもんだ。
「開き直ると晶さんに続く第二の『高嶋署の白き鷹』になるかもしれん」
「もう『ワイルドの
なるほど、やや日焼けをしたスポーツマンタイプとなれば『ワイルドの君』で納得だ。
「SR四〇〇のエンジンは本来はオフ車のエンジンやったらしい」
「オフ車? オフロードですか?」
薫君はあまりオートバイに詳しくない。細かなことまで説明すると混乱するだろうから説明は軽めで。
「もともとは五〇〇㏄のオフロード用バイクが有ってな、そのエンジンをオリジナルフレームに積んでオンロードの耐久レースに出た連中が居たんやと」
俺はカブ系専門なので詳しくないが、ロードボンバーってオートバイだったらしい。
「へぇ、それがSR四〇〇のルーツですか?」
「それは諸説ある。でもロードボンバーとSRの登場時期を考えると偶然な気がする」
空冷単気筒のロードボンバーは四気筒の大排気量マシンやツーストローク大排気量マシンを相手に優勝は出来なかったらしい。だが、軽快な運動性で一桁順位でゴール。プライベーターのオリジナルマシンと考えれば大健闘だ。
「レースに出たのが一九七七年、SR五〇〇の販売開始が七八年やったかな? 一年で新車を開発するのは無茶があると思う」
「昭和五十年代ですか、僕が産まれるよりずっと前からあるんですね」
雑誌の記事を読んだユーザーが発売時期を問い合わせたのが切っ掛けなんて説はあるが、俺は偶然だと思う。
「そうやな、でもって時代に合わせたマイナーチェンジを繰り返して生産されたんや。でも最近になって廃番になった、排ガス規制に適合困難なんやと」
「カブもですよね、僕たちのカブも排気ガス規制でモデルチェンジになったんでしたっけ?」
排気ガス規制は多くのバイクを生産終了に追い込んだ。キャブレターからインジェクションへ燃料供給装置を換装して生き延びた車種もあった。
「そうや、でも令和になってさらに厳しい排気ガス規制が有ってな、そこでSR四〇〇もギブアップ。霧島さんのファイナルエディションで歴史が終わったわけや」
だが排気ガス規制は更に厳しくなり、生き延びたバイクに死神の大鎌を振った。
「決して静かではないし振動もある。でもってパワーこそ今一つやけど軽快な運動性ってのはカブと似てるな。晶さんと霧島さん、カブとSR。どちらも根本は似てると思うで」
居間から女性陣の笑い声が聞こえる。女性三人が集うと姦しいというが、いったい何の話題で盛り上がっているのだろう?
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