空冷シングルな二人④ゴソウダン
酒が入るに従ってド下ネタを言いまくる人妻二人に対して徐々に言葉が少なくなる乙女が一人。霧島さんは絞り出すように「アタイも彼氏が欲しい……」と言った。
「う~みゅ、晶ちゃん、高嶋署にはイイ男は居ないの?」
「高嶋署はねぇ、定年間近か出世街道から外れたボンクラばかり」
言われてみればこの辺りに居る警官は俺より年上かどう考えても一般社会に出ればやらかしてしまいそうな奴しかいない。ウチのお客さんで刑事が居るけど、失言のせいで飛ばされてきたらしいからそうなのだろう。
「高嶋署に出会いなんて無いもん! 可愛い男の子なんて居ないもん! ゴツイおっさんとアホ丸出しの落ちこぼればっかりだもん!」
霧島さんの魂の叫びを聞いた晶さんは「だから私が男役でいられるんだね」と付け加えたが、リツコさんは「いや、晶ちゃんは普通にイケメンだし」と言ってた。合ってると思う。
「アタイだって女の子だもん、頭をポムポムされたりしたいよ……」
「私にも、そういう時期が……ありました」
いや晶さん、なぜ故に五・七・五? 何となく『ポポンッ』って聞こえたぞ。そうそう、確かにそんな時期があったよねぇ。
「晶ちゃん、試しにポムポムしてあげて」
「了解」
晶さんは霧島さんの隣に座り、微笑みながら霧島さんの頭をポムポムした。
「純は頑張ってるよ、よしよし」
晶さんに頭をポムポムされた霧島さんは「いや、先輩はイケメンだけど人妻だからなぁ……」と不満気。普通の女の子ならコロッといってしまうところなのに、霧島さんは平気なようだ。
「やっぱダメか。ねぇ中さん、知り合いに純ちゃんと合いそうな男の子って居ないの?」
「残念ながら『ゴソウダン』やな」
説明しよう、『ゴソウダン』とは部品を注文した時にメーカー在庫が無く、生産再開するのだかこのまま供給終了になるのだか不明な状態である。実際は相談に乗ってくれることが無く廃番となる事が多い。某狙撃手の「用件を聞こう」よりも用件を聞いてくれない絶望的な言葉である。
「おじさんだったら『条件を聞こう』じゃないの?」
「いや、俺は結婚相談所と違うからな」
ミニバイクなら条件を聞けばある程度の物を引っ張って来れるが、悲しいかな俺の人脈に二十代の可愛らしい男性を仕入れるルートは無い。そもそも俺みたいなオッサンが今どきの可愛らしい男の子を用意できるか? 出来るわけが無いやろ?
「ん~っとなぁ、俺は欲しいバイクを手に入れるお
あくまでもバイクの話だからと言ったが、三人は「詳しく!」と予想外の勢いで喰いついてきた。
「俺は欲しいバイクの部品を入手することからスタートする」
「彼氏は分割購入出来ねぇよ」
霧島さん、話を聞け。がっついてると彼氏が出来ないぞ。
「人の話をきちんと聞く事、話を聞かん人間は嫌われるぞ」
あくまで個人的見解だが、オートバイに限らず趣味の物は一旦集め出すと一気に集まる傾向にある。部品を買った時点でオートバイとの繋がりが徐々に生まれて太い糸となり引き寄せられるんじゃないかと思う。
「もちろん周りにも欲しい事をそれなりに言う。でも、あんまりガツガツすると周りに引かれるし、逆に縁が遠ざかる気がする」
霧島さんに「何か縁を引き寄せる努力をしているか?」と聞いたら「彼氏が欲しいなんて恥ずかしくて今まで誰にも言っていなかった」と返ってきた。
「私は『小さなバイクが欲しい』って言った時から運命が変わった気がする」
通勤からお買いものまで大型自動二輪のゼファー一一〇〇で済ませていたリツコさんだが、みそ……うん、年齢の事は黙ってるから睨まないでくれる? 小回りが利いて燃費が良い普段使いのバイクを求めてウチに来た。
「ん~っとね、寒い時期だったかな? 駐輪場の生徒を見てて『小さいバイクが欲しい』って呟いてたら中さんの店に来ることになったんだよね。それが馴れ初めで、私の美貌に我を忘れた中さんが猛アタックの末に……何よ?」
確かに馴れ初めではある。だが猛アタックはリツコさんの方だと思うし、そもそも我が家へ入り浸る原因となったのは独身時代の晶さんを男性と間違えて告白して玉砕したのことだったはず。
「ご飯を食べに来ていたニャンコが家猫になったって感じかな?」
「誰がニャンコよっ!」
気ままに我が家へ来てご飯を食べて、でもって弁当も持って行き酒を飲んで泊まって気が付けば空き部屋を巣にしてしまったのだからニャンコに間違いない。コタツに対する執着も含めてニャンコだ。
「リツコちゃん、合ってると思うよ」
晶さんに言われたリツコさんは少しムッとしたみたいだが、実際にニャンコなのだから気にしない。
「まぁリツコさんがニャンコなのはともかく、願いを声に出すのは良いと思うで。壁に耳あり障子に目有り、誰かが聞いてて彼氏を紹介してくれるかも。まぁそれはさておき薫君、俺らも肉を食うか」
「食べましょう、ご三人は涼しいお部屋でデザートをどうぞ。風車メロンが冷蔵庫にあるよ。アイスクリームも買ってあるからね」
女性陣がデザートを食べ始めに居間へ行ったところで俺たちの夕食が本格的にスタート。
「薫君、お互い奥さんに吸い取られた精力を補うか」
「そうですね、補ったところで吸い取られる気がしますけど」
薫君はニンニクを取り出して丸ごとバーベキューコンロの網に置いた。
「凄いよな、三十路の性欲って」
「ウチのもです。霧島さんは晶ちゃんと似てるから同じ様になるかもですね」
居間から女性陣の声が聞こえる。
「いい? 『帰っちゃダメ』って言って一夜を共にすれば―――」
「わわわわわっ! 晶ちゃんに言われたら―――」
霧島さんの彼氏ゲットの作戦を練っているのだろうか。
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