イケメン新婦と可憐な新郎③当日
いよいよ結婚式当日。新婦控室にはウェデングドレス姿のモデル級の美女が佇んでいた。普段は違反者を取り締まる『高嶋署の白き鷹』だが、今日ばかりは白いのは相棒の白バイではなくて自分自身だ。
「では浅井様、お時間まで少しお待ちください」
「へっ? ああ、そっか、ハイ」
式場へ来る前に市役所で婚姻届を提出して晶の姓は『葛城』から『浅井』に変わった。今日から晶は『浅井晶』だ。夫婦別姓が取りざたされる昨今だが、晶は浅井姓で呼ばれることが嫌ではなかった。好きな人と同じ名前で呼ばれるのが嬉しくて、くすぐったい様な少しムズムズした気持ちになっていた。
「あ、新郎を呼んでもらえますか?」
「はい、かしこまりました」
付き添いのスタッフが新郎を呼びに出ると晶は鏡をまじまじと見つめた。鏡に中に居るのは制服にヘルメット姿の自分ではなくて純白のドレスに身を包んだ花嫁。晶は少し不思議な感覚に襲われた。いつも男扱いされている自分なのに、今は自分ではない様に思う。今日の主役は自分だと思うと何だか照れくさい。
「う~ん、プロのメイクって凄いね」
以前友人にしてもらったメイクは妙に派手で、何故か女性ではなくて某歌劇団の男役に見えてしまった。今日の晶はブライダルメイクとでも言えばよいのだろうか。プロの手により何とも優しくて美しい、決して男性と間違われないメイクを施されている。
「クックックッ……今まで私を男呼ばわりした連中どもめ、吠え面かかせてやる」
キレイすぎる新婦の姿に狼狽えるがよいわと晶が拳を握ったその時、ドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「晶ちゃん、準備はOK?」
ドアが開き入ってきたのは新郎の薫だ。残念ながら身長は何ともできずそのままだが、小柄ながらも白のタキシード姿は何とも凛々しく、若干……いや、大変愛らしい姿だった。出席者よりも前に狼狽えて萌えたのは晶だった。
「うん、どうかな」
「じゃあ、これからの流れを確認ね。十分後に挙式のリハーサルで、そのまま写真を撮る。次に親族紹介で別室に移動して―――」
緊張して余裕が無いのだろう、それでも一言くらい褒めてくれても良いのにと晶は少し不機嫌になった。
「ねえ薫さん、タキシードがよく似合ってるよ。私に何か言う事は無いの?」
「ああ、えっと、ごめん。ちょっとテンパってた」
晶の一言で我に返ったのだろう。一息ついた薫は晶の顔を見つめた。
「きれいだ」
直球で褒められた晶は頬を赤く染めた。薫が続けて「僕なんかには勿体ないな」とほほ笑みかけると「勿体なにも何も、とっくにあなたの物よ」と晶が答えた。
◆ ◆ ◆
式自体はチャペルで行われるごく普通の式と言っても良いだろう。だが新郎と新婦は只者ではない。
―――――なんて可愛らしい花婿さんかしら
普段なら女性と間違えられる小柄で可愛らしい新郎は白のタキシードに身を包み新婦を待つ。小柄な体型を気にすることなく堂々とした姿は凛々しく、実際より大きく見えたのは気のせいか。
「おおっ」
父親にエスコートされ、新婦がバージンロードに姿を現すと場内は騒然とした。
「わ……私たちの王子様が……」
「晶様が女になってしまった……」
普段は白バイ隊の制服に身を包み、管内の交通の守護神である『高嶋署の白き鷹』は凛とした雰囲気こそ隠せないものの、純白のウェディングドレスに包まれたその姿は紛れもなく花嫁。
「晶ちゃん……きれい」
友人が思わずつぶやいてしまうほど美しい花嫁は母親にベールダウンをしてもらい、再び父とバージンロードを歩く。先に待つ新郎の元にたどり着いた父は新郎に娘を託し一歩下がった。新郎は新婦の手を取って祭壇に向き直り、父に代わって新婦をエスコートした。
――――似合うやないか
薫と晶は腕を組み、一歩、一歩と歩み、牧師の前へ。牧師と言っても式場スタッフが衣装を着ただけなのだが、そんな事を参列者は気にしなかった。新婦はグローブを外し、スタッフに渡した。いよいよ誓約だが、普段の癖が出た晶はキュッと『右向け右』をして新郎と向かい合った。
「薫さん あなたは晶さんを妻とし 神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも、病めるときも。喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し 敬い 慰め遣え 共に助け合い その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」
牧師の言葉に薫は透き通るような美声で答えた。
「はい! 誓います!」
続いて牧師は晶に問いかけた。
「晶さん、あなたは今、薫さんを夫とし神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
晶は女性の割に低めでハスキーな声で答えた。
「はい 誓います」
牧師は頷き、若き夫婦を祝福した。続いて指輪の交換、晶が差し出した左手薬指に指輪をはめた。手を重ねたまま返して今度は薫の左手薬指に指輪をはめた。手をほどいて新郎は新婦に一歩歩み寄り、いよいよベールアップしてキスだ。普通のカップルなら新婦が少しかがむだけでベールアップ出来るのに、身長差のある二人なので晶はかなり屈み込み、薫は少し背延びをしてのベールアップしてからのキス。これが色々な意味で腐りきっている晶の同僚の心を鷲掴みにした。
「神の祝福が有らんことを……」
二人が誓約書に署名をすると場内は拍手で湧きあがった。二人は一例をして扉まで歩き、参列者に一例をして退場した。延びに延びて半年近く延長した挙式は無事に終わり、いよいよ披露宴である。
この時、参列者は後に起こるサプライズをまだ知る由もなかった。
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