第310話 アルミフレーム
特に必要な訳ではないがモンキーのアルミフレームを買った。G社やK社なんてメジャーなパーツメーカーでは無くてネットオークションで買った物だ。値段は有名メーカー製の製品より大幅に安い三万円少々。『美味い・安い・早い』な牛丼や名古屋駅のきし麺と違って、部品で安くて良い物なんて無いと思っている。今回買ったのは本当に興味本位でだ。もしも使い物になるならこれをベースに一台作ってみるのも面白いかと思って買ったのだが……。
「重いなぁ」
箱から出して最初に感じたのは『重さ』だ。モンキーのフレームの構造をそのままで、材料のみアルミに置き換えたフレームは驚くほど軽いが折れると聞く。今度のアルミ切削部品で組んだフレームは重い。恐らく材料の弱さを肉厚にして強度を稼いでいるのだろう。有名メーカーのアルミフレームを模倣したであろうデザインはカッコイイのだが、重いのは困る。燃費だけでなく加速が悪くなってしまう。
「エンジンは普通に積めるんか、ん~っと……ちょっとエンジンハンガーに隙間が出来るなぁ。シム(隙間を調整する薄いの板)を入れて組んだ方が良さそうやなぁ」
ネックの角度も少し違う様な気がするし、純正部品を全部付けられるわけでもなさそうだ。カスタムを前提としたフレームなのだろう。
「頑丈そうやけど、ここまでゴツイとなぁ」
とりあえず飾っておく事にした。まぁ欲しがるお客さんが居たら見本で見せても良いし、一応書類も有る事だし何かに使えるだろう。ただし、このフレームを使うと『ホンダモンキー・ゴリラ』では無くて『キットバイク』と成ってしまうのは少し問題だ。フレーム以外が揃っているモンキーを蘇らせるならまだしも、その気になれば盗難車を部品取りにして一台作る事が出来てしまう。
(これを買う客がカスタム目的か盗難車のフレームロンダリングかを見極めて売らんとヤバい事になる)
◆ ◆ ◆
日が暮れて、そろそろ店を閉めようかと思っていたら葛城さんがやって来た。オイル交換だ。作業を待っている時、飾ってあるアルミフレームを見つけた葛城さんはちょっと眉をひそめた。
「おじさん、フレームを買うのは現実的じゃないって言ってたのに、何これ?」
葛城さんのスーパーカブは二台目だ。初号機は事故でフレームが歪んで修理が困難になってしまったので乗り替えた。フレーム交換で修理出来ないかと言われたが、費用の面で現実的ではないと乗り換えを勧めた。今乗っているのはエンジンレスで置いてあったカブ七〇に別のエンジンを積んで仕立てた特別仕様だ。だが、あの時とは状況も車種も違う。
「スーパーカブの社外フレームは無いけどモンキーの社外フレームは安くで有るんや。試しに買ってみた」
「ふ~ん、いくら?」
三万円少々だと言うと葛城さんは「本当?新品で?」と驚いていた。だが、手に取って良く見ると安い理由がわかったようだ。
「ん~っと、ずいぶん重いね。あと、何となくだけど綺麗じゃないかなぁ」
当然だ。値段が安けりゃ乗せられる利益も少ない。となれば仕上げや材質で削るしかない。
「重いやろ? 測ってないけど純正の鉄フレームより重い感じやで」
「頑丈そうだけど溶接は上手くないね」
『細かな所に神が宿る』と言われる。ちょっとした所の手間を惜しむと全体が今一つな仕上がりに見えてしまう。それがこのフレームの格安な理由だろう。
「まぁ、これを素材として修正しながら組むのは楽しいかもしれんけど、盗難車から部品を外して組まれるような事が有ったら怖いで」
「ん~っと、私達でもフレームを変えられると盗難車かどうか解らないかな~」
盗難車か否かの判断は車体番号を照会して行う。車体番号を削られたりフレームそのものを換えられると紹介しようの無い『別のバイク』になってしまうと葛城さんは説明してくれた。
「だから、車体番号が削られたバイクはちょっと注意してね。
ウインクしてお茶目に言ったつもりだったかもしれないが、葛城さんは今日もイケメンだった。
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