第241話 リツコは肉食女子
安曇河町のB級グルメと言えば丁稚羊羹や特産の安曇ベリーを使ったお菓子などがあるが、忘れてはいけないのが鶏の味付け肉だ。各店秘伝のタレで味付けされた鶏肉は安曇河町民のソウルフードでありスタミナの源。若者が湖水浴に行った時の昼食に食べたり、晩御飯のメニューで困ったお母さんの最終手段なったり、おっさんの酒の当てになったりと大活躍の味付け鶏肉は大島家の夕食にも良く出て来る。
「ねえ、中さん?」
「はい?」
普段はホットプレートやフライパンで焼くのだが、今日は涼しい事も有って外でバーベキューコンロを出して炭火で焼く事にした。食べる物は変わらないが少しレジャー気分である。
「スッゴイ歯応えだけど、何これ?」
「それは親鳥。リツコさんは若鶏を食べとき、牛も焼こうか?」
「うん、ニンニクとって」
「ほい」
噛みしめるほどに味わいを楽しめる親鳥は肉が硬い。顎が強い
「中さん、野菜ばっかり食べてないでお肉を食べなきゃ」
「うん、親鳥は硬いから時間が掛かるんや」
「どうして硬いお肉ばかり食べるの?」
「こっちの方が食べてるなぁって感じるんや」
(野菜に手が伸びる様になるとは、俺も歳を取ったんやなぁ)
中は若い頃は肉だけ食べていれば満足だったのだが、最近は肉だけだと胸焼けや胃もたれを感じるようになった。学生たちを相手に商売をしていて気持ちは若いつもりだが体は正直だ。厄年を過ぎて体力は落ち、だんだんと時間が過ぎるのが早く感じる様になってきている。
「リツコさん、今日はお酒を呑まないの?」
「ううん、ホルモン待ち」
珍しい事だ。外で焼き肉なんかしたら一升酒くらいすると思ってたのに。
「ホルモンまではビールはお預け♡」と言いながら彼女はアルミホイルに包んだニンニクを網の上に置いた。良く見れば用意しておいた擦りおろしニンニクやアルミホイルに包んでおいたニンニクは全部無くなっている。
「ニンニクが無い」
「食べたよ」
「食べ過ぎたら鼻血出るで」
「いいのよ、今夜は私が許さないんだから」
何か分からんが恐ろしい事を言い始めた。この前の事を根に持っているのだろうか。ニコニコしているのにオーラが見える気がする。
「ホルモン、行きま~す!」
「ビール砲、発射!」
滴り落ちた油が炭にかかり、炎が上がると同時に細かな氷を掛けて消火する。炎は香ばしさを演出する反面、肉を焦がして苦くする。ホルモンの油は強烈な火力を産み出して周りの野菜まで焦がしてしまう。
「た~んとおあがり」
「ウエヘヘヘ~ビ~ル~♪」
ホルモンが炎を上げると共にリツコさんはハイピッチでビールを呑み始めた。ノーメイクで可愛らしい顔なのに飲み物が全く可愛くない。
「ねえ、中さん」
「髭生や
彼女の鼻の下にはビールの白い泡が。まるで髭の様だ。
「今週は全然バイクに触ってなかったでしょ?何で?」
「ん? たまにはOFFにしようかなって」
焼き上がったホルモンをリツコさんの皿へ移して俺の分の親鳥を焼く。ホルモンは美味いがオッサンになった俺の胃袋には油がきつすぎる。
「休み時に休む。それが出来ん奴は仕事も出来んと言われた事が有ってな。たまにはリラックスしようかなって。ほら、バイクって命を乗せる訳やん。触ってると知らん間に気を張り詰めてるみたいでな、今年はしっかり休もうかなって」
「そっか、うん、休んだ後はバリバリ仕事だね」
この夜は二人とも肉を食べて、ニンニク臭くなって、精力もついた。正直な所、両者とも休養十分。気力体力充実の取り組みである。
「うおっ!ちょっと!何!」
「中さん!この前はよくも気絶するまで×××××したわね!次の日は筋肉痛で大変だったんだからっ!ヤられたらやり返す!倍返しよ!」
「ちょっと古いで」
「うるさいっ!おとなしく食べられなさい♡」
布団に押し倒された俺は、その夜は何度も何度もリツコさんに蹂躙された。
「よっしゃ、来いっ!」
「リツコ、いきま~す!」
――――――――――――
「ぐわぁ~!」
「まだまだこれからよっ!」
「助けてくれ~!」
「助けなど来ぬわっ!って言うか呼んじゃイヤ♡」
―――――――――
「マジで死ぬ!もう堪忍して!」
「堪忍してあげな~い♡」
「引っ張らんといて~」
―――――――――――
(中略)
「よし、今夜はこの位で勘弁してあげる」
「うう…何も言えねぇ」
翌日の朝。
「燃え尽きちまったぜ……真っ白によぅ」と精根尽き果てた漫画の主人公みたいなセリフを吐く男と、「ふう、昨夜は食べた食べた、色々な意味で♡」とワックス掛けした様につやつやと輝いた女が片田舎のバイク屋におったそうな。
めでたしめでたし。
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