第239話 お盆休み
自営業は店を開けなければ収入が入らない。そんな大島だが盆は休んでいる。バイクを修理するのに部品は必要だが、お盆は部品メーカーが休んでいる。カブ系エンジンのバイクの部品はある程度在庫がある大島サイクルだが思いもよらぬところの故障でバイクを長期間預かるのは場所も無ければ安全性も危うい。スーパーカブはまだしもモンキーやゴリラはその気になれば数分で盗難されてしまう。小さかろうが大きかろうがバイクは御客様の財産だ。盗まれでもすると車体は弁償できても思い出までは取り戻せない。
それに「休むべき時に休まない奴は仕事も出来ない」と先代から言われているので盆は普段行けない墓参りや休養のために店を閉めておくと決めている。そんな大島だが今年は何やら様子が違う様だ。
「中さ~ん、吊るすの手伝って~」
「ん~? うおっ!」
リツコに呼ばれた大島が縁側へ向かうと色とりどりのコスチュームが並んでいた。チャイナドレスに高校の制服、婦人警察官にキャビンアテンダント。半被や振り袖まで有る。リツコが母から貰った服を虫干ししていたのだった。
「これを点検しておきたいの、ジャン♪」
「ほう……ウエディングドレスやな……持ってたんや」
少し流行とは違うかもしれないが、可憐なドレスを見て大島は改めて身が引き締まる思いだった。長年連れ添った夫婦の如き二人だが結婚式は十月。式の準備は着々と進んでいるのだが、ウエディングドレスの神々しさに改めて自分は責任を果たさなければならないと思うのだった。
「うん、お母さんが式で着たドレスなんだって、レンタルじゃ無かったのね」
「景気の良い頃やったんやろうな」
リツコの母は嫁ぐ娘の為に万全を期したのであろう。防虫剤の匂いがする。
「いつか着る為にとっておいたんだけど、やっと出番ね」
「サイズはどうもないんか? この手の服はシビアやろ?」
「大丈夫、貰った時に確認したから」
「あ、ウ……着た事あるんや。じゃあ大丈夫やな」
「ウエディングドレスを独身女性が着ると結婚が遅れる」と言いそうになった大島だったが、それを言うとリツコはフグの様に膨れると思って口に出すのを堪えた。
「そうか……じゃあ大丈夫やな」
空は雲一つない快晴。窓が明け放され、吊った服は夏の風に揺らめいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます