第238話 低予算なお客様?

 さて、今回も予算の少ないお客様が来店です。でも、今回のお客様は少々性格に問題が有る様です。そんなお客様の場合、大島がどの様な接客をするのか見てみましょう。


「おい、この中古バイク買うたるさかい一万円に負けぇや」


 夏の暑い盛りで、大島のイライラが絶頂に達している所へ無礼な態度の若者がやってきました。ご丁寧な事にガムを噛みながらと言う無礼っぷりです。ちなみに一万円で買ってやると言っていますが、プライスボードには『車両本体価格四万円(税込)』と貼られています。


「…………」


 無言で倉庫へ行き、大島が取り出してきたのは冬季に路面へ蒔く凍結防止材の塩カル…俗に言う『塩』です。


「おっさん、何しとるねん。早うバイクよこせや」

じゃかあしゃクソガキやかましい糞餓鬼!客にも礼儀が有るぞコラッ!」


 ザックザックと移植籠手で固まりかけた塩カルをほぐした後、大島は無礼な来客を外へ追い出して速射砲の如く塩を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返しました。


「貴様っ!客に何て事しやがる!お客様は神様だろうがっ!」


 自称『お客様』は気が付かなかったのですが、店主である大島はキレていました。「え?中さんがキレた所?見た事無いわよ?」と婚約者のリツコが言うくらいキレる事の無いこの男がキレるとは、キレさせた自称お客様(?)も大したものです。


「『お客様は神様』……やと?」

「そうだ!お客様は神と同じだから誠意を見せるはずだろ!だから俺をうやま……痛いっ!止めろっ!止めろって言ってるだろうがヴォケボケ!」


 ほぐした塩カルはだんだんと粒子が荒くなってきました。もうほとんど岩塩です。四十四マグナム弾並みの粒子の荒さです。


「ほう……お前は自分を『神様』だと抜かしたな、大きく出たもんやな」


 と言いつつ塩カルを投げ付ける勢いは落ちていません。


「そもそも『お客様は神様~』と言うのは歌手の三波春夫が大元や……お前は三波春夫の理解者なんか?」


 塩カルは何時しか拳大の塊となり、無礼な自称神様に襲い掛かります。球速は時速一〇〇㎞前後、球質は限りなく重いので当れば激痛です。


「うるせぇ!そんなオッサンが好きな歌手なんか知るかぁっ!」

「知らずに言うとは…愚か者っ!『二〇二〇年こんにちは』やぞ」

 ※三波春夫が歌っていたのは一九七〇年です。しかも万博です。


「ううっ……俺様神様♪貴様何様?この店はポンコツ♪売り物もポンコツ♪店のオヤジはハゲで偏屈♪今都の為に安曇河は下僕♪」


 自称神様は何やら踊り始めました。神の舞でしょうか?


「何やってるんや?変な踊りで歌いだして……暑さにやられたか?」


 ちなみに自称神様は十六歳。エミ〇ムだか何だかみたいなラップで大島をディスっています。ラップは今都市立中学校のダンスの授業で覚えました。


「てめぇをディスってるんだYo!わかんねぇのかオッサンはYo!」

「ディスるとは悪口を言う事やったな、踊りながらそのパフォーマンスは……」


 大島は『ふむ』と言って自称神様を上から下まで眺めています。


「人の目を引く動きでリズミカルに悪口を言う……きみ〇ろ芸か……」

「どうして中高年のアイドルになるんだよぅ!」


 このオッサンにかかってはヒップホップもラップも綾小路きみ〇ろ扱いです。


「身振り手振りで注目を集め、ダジャレ交じりで悪口を言う……それは……」


 大島の目がギラリと光り、鋭くなりました。そして静かに言いました。


「………つまり………『きみ〇ろ』だ」

「綾小路じゃ無ぇって言ってるだろうがぁ~っ!」


 大島の懐から安曇河名物の扇子が出てきました。


「俺にもお前と同じ若い頃は有りました……あれから二十五年!」

「あんなのと一緒にするな~!」


「あんなの……やと!」


『あんなの』と聞いて大島の目に怒りの炎が揺らめき始めました。巨人〇星状態です。炎の火力はチャーハンがパラリと焼けるくらいが目安です。


「お前がきみ〇ろを『あんなの』呼ばわりする資格はあるんか?漫談テープの手売から始まり、苦節一〇年の末にスターダムにのし上がったき〇まろを!まともにバイクを買う金すら出せんお前が『あんなの』呼ばわりして否定やと!顔をタ〇ヤ水研ぎペーパーで磨いて鏡面仕上げにしてから出直して来いっ!」


 吠える様子は獅子の如し。すごい迫力ですが、作者の表現力が追い付きません。


「栄光の今都市民に対して何ちゅう態度や!お前に一言物申す!」

「ほう……一言物申すか……」


 要らない事を言った若者は大島の怒りの炎にガソリンを掛けてしまいました。怒りの炎が燃え上がります。怒りのアフガンです。


「黙れ小童こわっぱ!そんなセリフは何か伝説の一つでも残してから使えっ!お前なんぞ伝説の一つどころか俺の記憶にも残らんわっ!この腐れ×××放送禁止用語〇〇〇〇〇極めて極悪な言葉め!貴様に東日本大震災の時、トラックを運転して救援物資を運んだ江頭二:五〇の言葉を使う資格など無い!物申すなっ!」


「なっ……何だとぅ!」


 自称神様も怒りのアフガン状態の大島の迫力にタジタジです。とうとう大島は上半身裸になりました。読者サービスです。ちなみに背中には引っ掻き傷があります。リツコが付けたものです。


「俺がお前に一言物申~す!お前は神様と違うっ! 厄介者や!」


 極めに極めた罵倒の数々を迫力満点で伝えられた『神様』は泣きだしてしまいました。神をも恐れぬオッサンの前では栄光の今都市民も形無しです。


「びぇぇぇぇぇぇ~ばこわ僕は今都のもこさままろお子様なのにぃぃぃぃぃぃぃ」


 まさかの綾小路き〇まろ推しのエ〇ちゃん返しで神様を追い払ってしまいました。しかも星のマークでお馴染みな模型グッズで顔を磨けと来たもんです。神様どころか動く基本工作キット呼ばわりです。


「まったく……きみ〇ろ先生を馬鹿にするとは愚かな……掃除しよ……」


 バラまかれた塩カルを集めながら大島はため息をついています。


「エ〇ちゃん……露出が減ったなぁ……ハァ……」


 塩カルは天日にさらして乾燥させてから密封して保存します。乾燥剤が入っているので食べてはいけません。


「素直に『安いバイクは無いですか?』って聞けばよいのに……」


 大島中おおしまあたるは自転車屋さんです。オッサンで、綾小路きみ〇ろ推しです。ドーン教の信者であり、つ〇イ教の信者でもあります。


「神様は……まぁ、神様にもいろいろ居るわな……」


『自称神様』は大嫌いです。そして、ポンコツバイクを整備する偏屈オヤジです。

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