2018年4月 新年度スタート

185話 閑話 エイプリルフール

「おはようございま~す♪」


 週末の朝、朝食を食べに来た私は違和感を覚えた。


「おはよう」

「晶ちゃん、おっはよ~♪」


 字では分かりにくいのだが、食卓に座ってにこやかに手を振るおじさんと静かに朝食の準備をするリツコちゃん。まるで仲の良い新婚夫婦の様……なのだが?


(どうしてリツコちゃんがお料理? 何故おじさんが座ってるんだろう?)


「新婚さんみたいだね。リツコちゃんが料理するなんて」

「私はお料理なんて出来ないよ~」


 私が話しかけたのはリツコちゃん。なのに答えたのはおじさん。何故か頬に真っ赤な手形が付いている。何か有ったのだろうか?


「おじさんに言ったんじゃなくって……」

「リツコさんは料理なんか出来んよ」


 まるでおじさんみたいな話し方をするのはリツコちゃんだ。こちらは非常に不機嫌。オコだ。どちらかと言えば激オコだ。


 まるで逆ではないか……逆……人格が逆……入れ替わり……?


「もしかして、あなた達……入れ替わってる?!」


 ◆     ◆     ◆    ◆


 その日の朝、トイレに行こうと起きたリツコは寝惚けて大島の部屋へ入った。……いや、寝惚けたふりをして大島と一緒に寝ようとしたのだが……。


「あっ!」

「ん?」


 ゴチンッ!


 つまづいて転んでしまったのだ。しかも転んだ先には中の頭が在った。


「痛たたたた……ゴメンなさ~い……あれ? 私?」

「目から火花が……何?……ああ、な~んや俺か……俺?」


「……もしかして」

「……もしかして」


「俺達……」

「私達……」


 ◆     ◆     ◆     ◆


「と、いう事なのよ」


 女言葉で話すおじさんと言うのはなかなか奇妙だ。


「ったく……入れ替わるくらいやったらまだいいけどな!」


 関西の田舎言葉『高嶋弁』丸出しのオッサンみたいな喋り方をすると流石に美少女(30歳)のリツコちゃんでも魅力は半減だ。


「で?その中さん……じゃなくってリツコちゃんのホッペに付いた手形は何?」

「俺に入ったリツコさんに襲われかけた」


 ◆     ◆     ◆    ◆


「入れ替わったんだから、私が私を襲っても大丈夫な訳だ……」

「リツコさん、俺の体で何をするつもりや?」


 大島の体に乗り移ったリツコは自分の体を押さえつけて無理矢理に行為に及ぼうとした。


「体が元の戻っても訴えないから……このままシてしまえば既成事実に……」

「嫌ぁぁぁぁやめてっ!やめてっ!嫌ぁあぁぁぁ!」


 自分に襲い掛かられて気味が悪いのなんの、パジャマは引き裂かれ、下着をずらされた中は必死になって自身の腕から抜け出して自分の頬を力いっぱい叩いた。


「ワシの体で何しやがるっ!」


 バッシ~ン!


 ◆     ◆     ◆     ◆


「という事でな、危なかった」

「○○○の使い方さえわかっていたら今頃は合体して既成事実を作れたのに」

「リツコちゃん……お下品……幻滅~!」


「男と女の関係はフェアでないとな。酔わせてとか無理矢理なんて俺は嫌いや」


 少女の様な外見で腕を組んでオッサンの話し方をするリツコちゃんと入れ替わったおじさん。


「ゴメンなさぁい」


 おっさんの外見で少女の様にシュンとするおじさんと入れ替わったリツコちゃん。もう頭がこんがらがりそうだ。


「と……とにかく!病院へ行かないと!」


 晶が慌てふためいて休日診療の病院を調べていると2人の様子が変わった。


「ぷっ……くっ……くっくっく……あ~はっはっは……騙せた! 大成功!」

「晶ちゃん、今日は何の日?」


「へ?」


「カレンダーをよく見んとなぁ」

「や~い、騙された~♪」


 何のことは無い。エイプリルフールに2人で寄ってたかって晶を騙していただけ。

 そもそも入れ替わってもいないし、大島はビンタをされていない。


「ほら、これはリツコさんの特殊メイク」

「この位なら顔を作るのに比べたらチョイチョイよ」


 キャブクリーナーを付けたウエスで拭くと真っ赤な手形は落ちた。


「な、葛城さん、カレンダーを見とかんとアカンで」

「大成功!やったね♪」


「やったね♪…じゃないわよ!ビックリしたよ!まったくもうっ!」


 本日より新年度がスタート。新たな年度を迎えて賑やかな大島サイクルだった。


「葛城さんもどう?四月馬鹿やってみん?」

「じゃあ、えっと、私……実は男なの」

「晶ちゃん……笑えないよ!笑えないよっ!」


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