第166話 晶・恋をする?
毎度毎度イケメンと間違えられる…というか女性と見られた事の無い晶。
(私は中身は女の子……と思ったんだけどなぁ……)
今まで女性に性的興奮を感じる事は無かった。晶の恋愛対象は男性。にも拘らず晶は目の前に居るパン屋の店員が気になって仕方なかった。
「いらっしゃいませぇ♡いつもありがとうございまぁす♡」
(か……可愛い)
小柄で華奢。エプロンが良く似合う店員に思わず晶は話しかけてしまった。
「あ……あの……お付き合いをしている方とかっていらっしゃいますか?」
「え? も~お客さんヤダ~。こんな私とお付き合いする人なんか居ないです~」
(こんな私…どこが?こんなに可愛いのに……可憐なのに)
「そうかな?凄く魅力的に思えるけど……」
「ありがとうございます。えっと、お会計は580円です」
「はい、じゃ、1000円で」
「お釣りの420円です。お確かめください」
お釣りを受け取り、家に帰る途中でも彼女の声が頭から離れない。
(私……女の子が好きになったのかな……)
◆ ◆ ◆
「あのイケメンさんって大島さんの所の御客さんよ。良かったね」
安曇河のパン屋『パン・ゴール』
長年学校給食や様々なパンを作っていた老舗パン屋『マルエム』の娘さんが独立して開店した主婦や若い女性をターゲットにした店だ。今では『マルエム』は閉店してしまったが、懐かしいマルエムのパンは手伝いに来たオヤジさんが焼いて店に出している。懐かしい味も楽しめる美味しいパンのお店だ。
今月から店員として働き始めた
「良くないですっ!私は女の子とお付き合いしたいんですっ!」
膨れっ面で真っ赤になってプンスカ怒っているが迫力が無いのでまたからかわれる。
「いいじゃない。付き合ってみたら?考えが変わるかもよ?」
店主だけではない。店に居る他の店員や女性客にも囃し立てられる。
「そうよ!下手な女に取られる位ならいっその事、晶様は薫ちゃんに!」
好き勝手言っているが言われる本人としてはたまった物ではない。
「私は男ですっ!女の子と結婚して幸せになりたいんですっ!」
そう、可憐な外見だが浅井薫男の子なのだ。自分は男だと言いつつ、葛城の笑顔が忘れられない薫であった。
「だから、そこがまた『萌え』なのよ~」
「無自覚天然男の
(女っぽいのは自覚してるけど、とうとう男の人が好きになったのかなぁ……)
◆ ◆ ◆
「ふ~ん、まぁ今の時代やったら気にせんで良いと思うけんど……」
ツキギホッパー125を分解する手を止めて大島は晶の相談を聞いた。天気は悪いし来客も来ない。暇なのでこのところ手が空くとホッパー125を整備している。今日は高圧洗浄機で砂や泥を落として乾燥させていた。そこへやって来た葛城は時間つぶしに丁度良かった。
「前にリツコちゃんをからかった時は 何とも思わなかったのに。女の子にときめくなんて……おじさん、どうしよう?」
どうしよう以前に一緒にお風呂に入ってなんやかんやしていた事に驚いた。道理で風呂に入った時、何か変な気持ちになったはずだ。
(人の家の風呂で何やってるねん……)
「でも、急に女の人が恋愛対象になるんか?」
恋愛対象とか性認識は生まれついてのものでは?
「おじさんどうしよう、中身まで男の人みたいになって来たのかな……」
(You、男の子として生きちゃいなよ☆……なんて言えんわな)
◆ ◆ ◆ ◆
夕食を食べながら磯部さんに相談してみた。
お酒が入っているとはいえ普段は生徒の悩みを聞いたりするプロだ。人付き合いが苦手な俺よりよほど良い解決法を教えてくれるはず。
「……ということで、葛城さんが相談して来たんやけど、何か聞いてる?」
「何も聞いてないわよ。晶ちゃんが恋か、良いんじゃない?」
「相手さえ嫌がらんかったら良いかもしれんね」
「そうよ。もう時代は変わりつつあるんだから」
なるほどな。時代は変わりつつある訳だ。カブも燃料噴射でLEDライトになるくらいだ。古い考えだけでは駄目なのだろう。若い娘さんの考えは違うな。
「だから、私が
「カレーライスを作れるようになったら考える」
カレーライスは料理の全てが詰まっていると思う。野菜の皮を剥く・具を炒める・ご飯を炊く……作れるようになれば料理の基本は出来ているはずだ。しかも美味い。
「どうしてそんな意地悪言うの?酷い……」
「酷いのはリツコさんの料理の腕と酒癖。酒癖は仕方ないけど料理はしっかりできる様にならんと、俺が死んだら磯部さん餓死するで?」
仮に磯部さんみたいな年下の女性と結婚したとしよう。絶対俺の方が先にあの世へ行く。女性の方が長生きする上に……何考えてるんだ俺は。
「そこは『僕は死にません!あなたの事が好きだから!』じゃ無いの?」
「そんなバブリーなドラマを何で知ってるの?」
再放送で見ていたらしい。学校から帰ると放送してたとか。
茶碗を洗いながら会話が続く。
「晶ちゃんが気になる子ってパン屋さんに居るんだったよね?」
磯部さんが悪戯っ子みたいな顔をしている時は何か考えている時だ。
「中さん、明日の晩御飯はシチューが良いな~」
「パン買って来いって事やろ?」
「バレた」
ニシシと子供みたいな顔で笑うリツコさんは可愛らしいと思う。この悪戯娘め。
「食パンの在庫が無くなりそうやし買いに行くわ」
明日は食パンとシチューの材料を買いに行かんと…なんて言い訳をしつつ、葛城さんの気になる娘を見に行く事にしよう♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます