第167話 大島・パンを買いに行く
「さてと、あとはバゲットやな。フランスパンとどう違うんや?」
磯部さんのリクエストのシチューと食べるパンを買いに……と理由を付けて軽バンをパン・ゴールへ走らせる。
「いらっしゃいませ~」
見た目は華奢で小柄な可愛らしい……スリムな……女の子やな? 顔からすると二十代前半と言ったところだろうか?葛城さんより少し年下だろう。
「あの……何か私の顔に付いてますか?」
ジックリ見過ぎて変に思われてしまった。
「大島君、うちの看板店員に手を出したらアカンで~」
おっちゃんに言われたけど、どうも違和感がある。女の子……やな?まぁええわ。夕食のバゲットを買うついでに玉ねぎの乗った『サラダパン』マカロニ入りの『ウエスタン』更に定番のカレーパンやアンパンを買っておく。冷凍保存して食べる時にオーブンで焼けば いつでも美味しいパンが食えるのだ。特にサラダパンとウエスタンは表面がカリッとして焼きたてのふんわりした感じと又違った味わいが在る。
余談だがなぜマカロニ入りのパンが『ウエスタン』なのかと言うと、『マカロニウエスタン』が由来だとか。これは名付けた本人に聞いた事だから間違いない。
おっちゃんは俺のオヤジと同期だとか。体調を崩す事も多いみたいだけど無理しないでこれからもパンを作ってほしいものだ。
葛城さんが気になっている子は可愛らしい。葛城さんとお似合いだと思う。
◆ ◆ ◆
以前は店で昼飯を食べていたけれど、最近は正午から午後1時までは昼休憩として店は閉めている。夕食の買い物や炊事洗濯に時間が掛かるからだ。独り暮らしの時は適当に済ませていた食事だが、磯部さんにそんな食生活を押し付ける訳には行かない。買い物を済ませて時間が許す限りは夕食の準備をする。
今日は可燃物を扱う作業はしない。ストーブを出して上に鍋を乗せる。店番をしながらシチューを煮込む。今日はクリームシチューだ。我が家のシチューは具が大き目だ。焦げ付かない様に、煮崩れない様にジックリ火を通すのはこれが一番……かどうかはわからない。店に居ながら料理が出来るので重宝している。
店番をしながらご近所の奥様方と世間話をする。
「中ちゃん、オバちゃんが言うのもアレやけど」
「何? 何か悪い事したんか? 騒がしかった?」
磯部さんが出入りする様になって我が家は賑やかになった。葛城さんも泊まりに来るし、お酒を呑んだ二人が騒ぐことも多い。少し騒がしすぎたのかもしれない。
「女の子を何人も連れ込まん方が良いと思うで」
「二人やん」
「ホンマは三人いるやろ?遊び過ぎと違うかなぁ」
「?」
心当たりが無い。下宿しているリツコさんと遊びに来る葛城さん以外は出入りしていない。
「色っぽい娘さんと、清楚な娘さん。若い娘さんの三人来るやんか」
「ん?三人? あ、それ、全部同じ
◆ ◆ ◆ ◆
「……という事で、おばちゃんはウチに三人の女の子が出入りして俺が女遊びかエッチなお姉さんを呼んだと思って注意して来た訳や。磯部さんは化粧で変わり過ぎや」
「シチューおかわり♪」
中さんがぼやくのも無理は無いと思う。自分で言うのも何だけど私はメイクで変わる。素っぴんだとお酒が買えない位なんだから。
「眼元の黒子が無かったら同一人物って信じてもらえへんで」
「バゲットはまだ有ったよね?」
リクエストしたとはいえクリームシチューとは嬉しい誤算。ビーフシチューと違ってクリーミーな優しいお味♡
「三人の女の子と付き合ってると思えば? 美女に囲まれてハーレムよ♡」
「レオタードの盗賊三姉妹じゃあるまいし」
ちょっとわかんないなぁ。
「何それ?」
「知らんの?じゃあ女神三姉妹の方が解りやすい?」
「?」
中さんは時々私が解らない例えをするので困る。
「中さんは、どの私が好き?」
「素材の味を生かした薄化粧やな、正直、キレイやと思うって何言わすねん」
今度は薄化粧で迫るか、それより聞かなきゃいけない事があるんだった。
「晶ちゃんの気になるのはどんな子だったの?」
「ん~何とも微妙な感じで……何て言ったらよいのやら」
微妙って何だろう?
「微妙って何?中さんの眼から見て変な所があるの?」
腕を組んでう~んとか唸ってる。どんな理由があるんだろう?
「フレーム……骨格が女の子では無い気がする」
「フレーム? 骨格なんか解るの?」
「足の付け根……腰やな、骨盤周りに違和感がある」
中さん曰く、私や晶ちゃんは腰周りの造りが男と違うんだって。
「男の人ってな、女装しても性転換してもゴツさが残るわけや。例えるなら四駆とかトラックのフレームみたいな頑丈な感じが。それに比べると女性は柔らかなスーパーカブのプレスフレームみたいな曲線のフレームで……」
例えがわかりにくい!余計にわからないよ!
「なんて言ったら良いんかな?女の人やのに骨太な感じがする。まぁどっちにしろ、付き合ったらお似合いになりそうやな」
「ふ~ん。まぁ晶ちゃんはイケメンだから大丈夫じゃない?」
本人が聞いたら泣くけれど、晶ちゃんはイケメン女子だ。
「で、どうする?二人をくっつけるつもり?」
「そっとしておきましょ」
結局、私たちは『静かに見守る』と結論を出したのだった。
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