第165話 速人・作業が進む
「お届け物で~す」
「まいど、ご苦労さんです」
宅急便のアンちゃんから何個か荷物を受け取って認め印を押す。
速人が注文していたギヤが届いた。一緒に個人からの品物も届いた。ギヤはウチから注文した部品だ。個人からの荷物は速人が買った物だろう。筒状の封筒。形から察するに恐らくシフトドラムだろう。毎度のメールを送り毎度の返事が返ってくる。そして速人はやって来た。今日も理恵は店の机でお勉強。2人はいつも一緒に居る。
「ギヤとシフトドラムが有ったらかなり進みますね♪」
「じゃあ始めるか」
マグナのシフトドラムからシフトフォークを外してCD50のシフトドラムへ移植する。
「細かい部品が多いから無くさん様にな」
「はい。ここのピンはどうやって抜くんですか?」
「ここは直接つかめんからコンコンとプラハンで叩くんや」
「こうですか?」
プラスチックハンマーで軽く叩くとピンが浮いてくる。
「次は逆の流れで組んで行ったら良いんですね」
「そうや。オイルをたっぷり塗って優しくな。
シフトフォークとドラムはオイルをたっぷり塗ってキチンと組めばヌルヌルとした滑らかな感触で動くようになる。
「ニュートラルスイッチのローターはカブ90用を使おう」
「カブ90ですか?6Vミッションに付いていたのは駄目ですか」
どちらも接点の接触位置は同じだ。でも、形が違う。
「接触するまで板の角度が滑らかで板の幅が厚い。こっちの方が強そうや」
「う~ん、どうなんですかね?」
実際の所はどうか解らない。何せ始めてやる試みだ。
「接点の場所・スイッチの穴・遠心クラッチでカブ90と一緒や。多分大丈夫やけど、組んでテスターを当てて点検しよう」
次はミッションだ。マグナのミッションはボールベアリングタイプ。今回のクランクケースはニードルローラーベアリングタイプ。これがギヤが違う原因だろう。
「モンキーの4速カウンターギヤは凸が無いですね」
「ここで内側の幅が違うのを辻褄合わせしてるんやな」
ギヤを交換してケースを閉じると無事に閉まった。
「仮組みしてシフトが動くかチェックや。動かんかったら間違ってる」
「1・2・3・4・N…1・2・3・4大丈夫…なんですよね?」
速人が心配するのも無理は無い。CD50のシフトは本当のロータリーだ。カブのミッションは3→N・4→Nが停止時だけ入るニューロータリー。安全装置が無いから『幻の5速』と思って1速に入る事も在りうる。
「それが普通のロータリーや。カブはよく考えてある。メーカーが想定してない事をやるから自己責任やな」
「4速で走っていて1速に入れたらエンジンはアウトですね」
それを防ぐためにメーカーが考えたのだろう。
「まぁ、ニュートラルランプが点いてたら4速に戻せるからな。そんな意味で大事やからニュートラルスイッチを見ておこう」
「はい、テスターですね。どうやって使うんですか?」
「これはな……」
ウチでテスターは針が動くアナログ式だ。20年近く使っている。今のテスターと違ってダイヤルをガチャガチャと回して使う。
「ダイヤルを『導通』レンジに入れて片方はニュートラルスイッチ。もう片方はアース…クランクケースに触れると音が鳴る」
「こうですか?」
速人がテスターを見て、シフトドラムを回す。ニュートラルスイッチが導通してテスターがピーと鳴った。
「ここでニュートラルやったらこの金具で正解や。どうや?」
「ニュートラルになってますね」
どうやらローターの部品選択は正しかったようだ。
「今日はここでタイムアップやな。続きはまた今度やな」
「次は腰下の本組みに入りたいですね」
「理恵は宿題終ったんか?」
「とっくに終わったよ。速人、帰る?」
「うん、帰る」
「じゃ、私も帰るね。また明日、バイバ~イ」
スキップしながら理恵は帰って行った。
「帰りの電車まで時間が有るな。コーヒーでも飲むか?」
「いえ、本屋に寄ってから帰ります」
本屋へ寄って帰ると言って速人も帰って行った。作業場が静寂に包まれる。
♪~♪~♪~
メールだ。
「暖かい物が食べたいです。汁物が良いな♪リツコ♡」
さて、晩飯の支度にかかろう。今日はちゃんこ鍋風煮込みうどんだ。
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