第163話 理恵・葛城・磯部のチョコ作り
三連休最終日。理恵・磯部さん・葛城さんの女子三人組と俺でチョコ作りをする事になった。個人的にはチョコを型に流すだけなら普通に買って渡してくれる方が衛生的・見栄え共に良い気がする。
……それを言うと色々な意味でお終いになるから言わないでおこう。
「まずはチョコレートを細かく刻む。それを湯煎で溶かす」
葛城さんは手慣れたものだ。自炊しているのもあるが、宿直や当番で簡単な料理を作るからだとか。理恵も家で母親の手伝いをしているからか包丁の使い方に不安な所は無い。
問題は磯部さんだ。
「磯部さん、肩に力が入り過ぎやで」
「だって……苦手なんだもん」
眉毛がハの字になっている。磯部さんは本気で料理が苦手らしい。
「磯部さんはチョコを刻むのは2人に任せようか」
「うん」
湯煎で溶かしたチョコを型に入れる。ハートや星形の型を買っておいた。
「私はナッツや砕いたクッキーを入れて固めるね」
葛城さんが一番得意みたいだ。理恵もピーナッツ入りチョコを作っている。
「磯部さんは……基本を大事にしようね」
「うん」
磯部さんの元気が無い。チョコの出来栄えに納得がいかないのかそれとも己の料理の下手さに愕然としているのか解らない。
俺は製氷皿にアーモンドを入れてチョコを流し込んだアーモンドチョコ。おやつに摘むのに作ってみた。台所が広いからウチでやってるけど、俺は要らないんじゃないかな?葛城さんに任せておけばOKな気がする。
「固まったら袋に入れてラッピング。リボンをつけるっと♡」
ニコニコ笑顔でリボンを結ぶ葛城さんは今日もイケメンだ。※葛城は女性です
「ねぇ、葛城さん」
「な~に♪」
「これ……急に渡したら……速人……驚くかな?」
「大丈夫。理恵ちゃん自信持って!」
「迷惑じゃないかな…気まずくならないかな……嫌われたりしないかな……」
盗み聞きするつもりは無かったけど聞こえてしまった。理恵の表情は恋する女の子のものだ。義理とか友チョコなんかじゃない。本気のバレンタインデーのチョコだ。
(青春だねぇ……俺も若い頃は……どうやったっけ?)
「ちょっとだけでも……喜んで……くれるかな…」
理恵と葛城さんのチョコは可愛らしく出来ている。問題は磯部さんだ。
「中さん……これ……渡したら驚くかな……」
歪で不格好。子供が作ったみたいな不出来なチョコだ。
「大丈夫、気持ちが大事や。喜んで受け取ってくれると思うで」
女の子からチョコをもらって喜ばない男なんていない。
「迷惑じゃないかな……気まずくならないかな……」
「それは男の度量次第やな。笑ったり嫌がったりする男はシバいたれ」
「喜んで……くれるかな」
「大喜びして抱きしめられるんと違うか?大丈夫やって」
この台詞回しは流行っているのだろうか?理恵も磯部さんも同じような事を言ってる。どこかで聞いた気もするが思い出せない。
「絶対?約束できる?駄目だったら責任取って貰うよ?」
「大丈夫。保証する」
「保障するんだ……フンフフ~ン♪」
急にご機嫌になった。女心は難しい。排気側のバルブクリアランス調整より難しい。
俺のチョコは1個ずつセロファンで包んで袋にまとめておく。仕事の合間につまんだり、ウイスキーを飲みながらつまむためだ。
「おっちゃんはチョコは誰かにあげへんの?」
「おっさんのチョコを欲しがるもんが居ると思うか?」
……おらへんのかい。
昼ご飯を食べてしばらく駄弁った後、夕食時に理恵は帰って行った。葛城さんと磯部さんは夕食を食べて帰った。
洗濯機を回しながら晩酌をする。今日はチョコに合せてウイスキーのロック。
どうしてだろう。作っておいたチョコが少し減っている気がする。
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