第161話 伸屋 多緒・偽モンキー

「ママ~私が春から乗るモンキーはどうなったのぉ~」

「多緒ちゃん。直させるのにお店を探すから待っててね」


 今都中学3年生・伸屋多緒のぶや たお

 成績がイマイチで素行が悪く、仕方なく受ける高嶋高校だがバイクの免許を取って遊べるならそれでも良いかと進路を決めた。


 自分は尊い今都いまづ人間かみだから名前を書き忘れなければ高嶋高校ぐらいなら勉強せずとも合格出来るだろうと免許を取っていないにもかかわらず小さくても値段が高いモンキーを買ってもらったのだ。


 生産終了とかプレミア価格とかは解らないが、たったの40万円だ。市内で最も高級な今都のバイク店『セレブリティ―バイカーズTatani』でパパにおねだりして買ってもらったバイクだったのだが調子が良くない。


「やっぱり国産なんてダメよね。エンジンは掛からないし錆びるし」


 エンジンをかけてアクセルを思いっきり捻ってブンブンと回していたら急にギュウと音がしてウンともスンとも言わなくなってしまった。


 買ってもらって以来、登録せず乗ってもいないのに動かないモンキー。多緒はホンダのモンキーと思っているが、実際は日本製ではなくTataniが輸入したかなり怪しいメーカー製の偽物だ。


(乗ってるだけでお金持ち。それを普段乗りするから格好良いのよね)


 オークションでは70万円……下手すれば100万円に届きそうな高級バイクを盗難も恐れず乗るのが格好良い。貧乏な安曇河の連中が通う高嶋高校で金持ちアピールをする為にはホンダモンキーで通いたい。


「ババァ!さっさと修理に出して直させろよ!」

「うん。札束で張り倒してでも修理させるね。ウチは金持ちなんだから!」


 ◆      ◆     ◆     ◆


 多緒の母は最初にバイクを購入した店、セレブリティ―バイカーズTataniに電話をした。だが受話器から聞こえるのは『おかけになった電話番号は現在使われておりません。もう一度番号を…』案内のアナウンスが聞こえるだけで繋がらなかった。


 次に多緒が買っていたバイク雑誌に載っている店へ電話をかけた。


「ホンダのモンキー扱ってるでしょ?あんたの所で直しなさいよ!」

『はぁ?どうしてうちで売っても無いバイクを?』


「私は伸屋よ!金持ちなのよ!言うこと聞きなさいよ!お客様は神様なのよ!さっさと取りに来さらせっ!」

『神様はそんな乱暴な喋り方しません…ガチャンッ!…ツーッツーッ…』


 少し話しただけで危ない奴と判断したのかモンキーカスタムで有名な某店は電話を切った。


「仕方が無い。貧乏な卑しい輩に修理をさせてあげよう。神に等しい今都の住民に使ってもらえたら店にとっても利益なはずよっ♪」


     ◆     ◆     ◆


「じゃあどこで整備させたらいいのよぉっ!」

『知らんわい!自分で探すかググれカスっ!』


 まず最初は今都で古いバイクばかりを扱っている店に電話をしたが、けんもほろろに断られてしまった。ポンコツばかり扱っている(旧車・ビンテージバイクを扱う専門店です)から喜んで整備すると思った多緒ママの目論見は外れた。


 ホンダの店なら直せるだろうとホンダのディーラーへ電話をするが「いや、うちは4輪車の店なんで2輪車はの整備は受けていません」と、全部断られてしまった。ムカついた多緒ママは本田技研に苦情の電話を入れた。


 イラつく多緒ママだったが良い考えが閃いた


「原動機付自転車なら自転車屋で直せるじゃない。私って頭良い~♪」

 

 そこで電話をしたのが安曇河の大島サイクルだった。


 もちろん断られた。


「仕方がない、都会の専門店を呼んでやるか」


 電話をかけること数件、ようやく修理を引き受ける店を見つけて引取りに来させた。


「遅いやんか!私は今都の金持ちなのよ!」

「はぁ?」


(今都が金持ちねぇ……ん?)


 フレームナンバーを見たバイクショップの兄ちゃんは気が付いた。


「プッ……クッ……こ……これ、モンキーの偽物ですよ……超ウケる……何これ?『ホンバ・モンピ―』って、偽もんやんけ!金持ちが偽物?金持ってても見る眼無いやん!」

「どう言う事よっ! 40万円もしたのよっ! 私は今都民なのよっ!」


 偽物と言われ怒り心頭で喰ってかかる多緒ママに整備士は笑いながら説明した。


「プッ、ほら『HONDA』じゃなくって『HONA』でしょ? 『Monkey』じゃなくって、『Monpey』ってなってますよ。フレームナンバーが『☆××△△~』でしかも……」


 笑いをこらえながら長々と説明をする整備士を前に、多緒ママは呆然とする事しか出来なかった。


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