第104話 写真立て

久しぶりのお鍋。久しぶりの家庭料理の夕食。そしてお酒。

お腹一杯になった私は行儀が悪いけれど寝ころんだ。


写真立てが有る。女の人と写った大島さんは今より髪がフサフサだ。


「ああ、それは……婚約者やった人と赤ちゃん」


そう言われると女の人はふっくらしている様に見える。


婚約者?赤ちゃん?聞こうとしたけれど


「お湯が冷める前に入っといで」


大島さんに促されたのでお風呂に入る事にした。


『婚約者やった』って事は結婚はしていないのかな?子供はどうしたのかな?

お酒のせいだろうか、考えがまとまらない。


脱衣場の鏡に映った自分に問いかける。


聞いて良い事なのか、そっとしておいた方が良いのか。どっち?


言いたくない事を無理に聞くのは良くないか……そっとしておこう。


「お先にお風呂戴きました」


大島さんは普通にしている……いや、ちょっと元気が無い。


「そっちの部屋に布団を引いておいたから眠かったら先に寝てや~」


それだけ言い残してお風呂に行ってしまった。


写真に写る大島さんは幸せそうな笑顔だ。婚約者?名前は知らないけれど、やはり幸せそうな顔をしている。


大島さんはお風呂から出てこない。ついでに風呂掃除もしているみたい。『男やもめに蛆が湧く』なんてお祖母ちゃんは言ってたけど、皆がそうでもないらしい。お台所も部屋もきれい。お料理も美味しい。女子力は私より上かも知れない。


洗濯物せんたくもんが有ったらついでに洗うで~」


さすがにそこまでは甘えられない。パンツまで洗ってもらうのはちょっと恥ずかしいので遠慮した。大島さんは本当にマメな人だと思う。


「ありゃ?待ってってくれたんか?」


洗濯機を回して大島さんが部屋に戻って来た。


「うん、まだ眠れないかな」


「もう少し呑みますか?」

「ええ、少しだけ」


その後は少しだけビールを呑んで話をした。他愛のない話だったと思う。お互いに一人暮らしで話し相手が欲しかったからだろう。バイクの事・仕事の事・ご飯の事、よく喋ったと思う。


写真の事は聞けなかった。


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