第86話 バイク通学規定変更
轟のオイル交換についてきた理恵。何やら1枚のプリントを出してきた。
高嶋高校のバイク通学規定が変更になったらしい。
「え~っとねぇ……おっちゃん、読むで」
理恵はホームルームで配られたプリントを読んでくれた。
手がオイルまみれなので助かる。
『オートバイ通学規定変更について』
1・原動機付自転車及び小型自動二輪免許(以下バイクと記す)
の取得は成績・素行を審査し、問題無い者のみ許可をする。
※平成29年11月以降の免許取得許可申請者から適用
2・原動機付自転車1種及び2種での通学は
学校より直線で半径1.5㎞以上の距離に住む者のみ許可する。
※現在通学許可が出ている者は使用可能
平成29年11月以降のバイク通学申請者から適用
3・許可無く免許を取得及び通学に原動機付自転車で通学をした者は
停学及び退学処分とする。
『小型特殊免許の取得について』
小型特殊免許の取得に関しては自由とする。ただし、通学での使用は許可しない。
以上
「……だって。美紀ちゃんの言ってた通りだったねぇ」
プリントを読み上げながら呑気に大判焼きを頬張る理恵。
1.5㎞か。自転車なら楽勝の距離だな。今都に自転車屋は無いけど。
「来年度は今都中から高嶋高へ入る子は減るんじゃない?バイクに乗るために高嶋高校へ入学した子が居るもん。じゃ無きゃ今都の子は高嶋に入らないよ」
ドレンから落ちるオイルを眺めながら轟さんは続ける。
「それより、小型特殊って何やねん」
通学に使うやつは居ないと思うが、規定にあることは仕方が無い。 何をするか解らない連中が棲む今都は『修羅の街』だからだ。
「小型特殊はトラクターとかコンバインの免許や。今都の生徒に配慮したんやないか?田畑と自衛隊しか無い町やしな」
轟さんのカブはオーバーホールはしていない。鉄粉は無いけどオイルの色は濃い。タールが溶けだしたのだろう。長期保管車に多いパターンだ。時間が許すならクラッチに溜まったスラッジとオイルフィルタースクリーンを掃除しておきたいところだ。
「それは知ってます。でも、わざわざ決める事?」
「決めんとアカン事情でもあったんやないか? おっさんは知らんけど。」
オイル交換を終えて一息つく。
ココアを入れて二人に渡す……って、理恵。大判焼き何個喰った!?
「理恵は食いしん坊やね~」
轟さん……それで済ますのか? 男が引くくらい食ってるぞ。
「磯部先生なんか『生徒と同じ目線で』ってリトルカブに乗り換えてしもたし。格好良かったのに…あんな風に大人の女になりたいなぁ…」
理恵はカバンから鯛焼きの詰まった箱を出した。
どれだけ喰うんやお前は…。昔読んだライトノベルでこんな女の子が居たな。
「格好良かったのにね、リツコ先生。リトルカブ変えてからスカートも長くなって男どもはガッカリしてる。亮二がため息をついてたから抓ってやったw」
あの美脚が封印されたなら残念だ…でもな、女の子は下半身を冷やさない方が良いんやで。
「れもふぁ、ふ
言わんこっちゃない。鯛焼きを喉に詰めたな!。食べながら話すからだ。
お行儀が悪い。困った事だ。
「よしよし。飲み物で流そうね~」
轟さんは妹の面倒を見るお姉ちゃんみたいだ。
「ふぅ…死ぬかと思った」
ココアで喉に詰まった鯛焼きを流した理恵はぜぃぜぃと息をしている。
「遅くなるから帰ろっか?」
「うん。おっちゃんご馳走さま」
もしかすると、二人はウチの店の事が心配で来てくれたのかもしれない。
高嶋高校がバイク通学禁止になったら商売にならない。バイクの販売台数が減った今では死活問題だ。
一部地域だけバイク通学は出来なくなったが仕方ない。今都の学生が何に乗って学校に通うかはどうでも良い。ウチは今都の人は基本的に出入りをお断りしている。
(ウチの商売に影響が出んと良いんやけどなぁ…)
2人を見送りながら思うのだった。
※理恵たちの通う高校は第2次ベビーブームの頃に駐輪場が整備され
生徒が減った今では小型バイクくらいなら余裕で収容できます。
それでもトラクターを停めるほどのスペースはありません。
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