第85話 葛城・白バイ隊員だけどスポーツマフラーは欲しい

今日も愛車のカブ70改90は絶好調。不満が無いと言えば不満は無い。

「リトルカブに付いてたマフラー。スポーツマフラーだったよね……」


葛城は磯部に嫉妬していた。大島がいつも言うのは

「純正が一番良いからウチは純正流用チューンで」

実際自分が乗っているカブもそうだ。

なのにリトルカブに付いていたのはJ製の スポーツマフラー。

マニアが求める逸品だ。元値が高価な為、 程度がイマイチの中古でも高価だ。


葛城には手の出ない価格で取引されている。それなのに……


「やっぱり私が女らしくないからかな……」


大島のおじさんだって男だ。色っぽい女性には弱いに違いない。

張り切ってサービスしたのだろう。


自分が女らしいか否かは一旦置いておくことにして、

カブのマフラーは気になる。純正マフラーは静かだが物足りない。


「仕事のあとで調べてみようかな」


今日も国道161は流れが速い。葛城は気を引き締めて仕事へ向かった。


仕事を終えて携帯を見ると大島からメールが入っていた。


『磯部さんが連絡を取りたいそうです。お友達になりたいのかな? 良かったらメールしてあげてください。アドレスは××〇〇〇△△@ホニャララです』


そうだ。女性らしくなりたいなら、女性らしい人に聞けばよい。

友達になればメイクや服装の事も聞きやすい。


『わかりました。連絡しておきます。』……返信。


大島からのメールに有ったアドレスをアドレス帳へ追加して


『大島のおじさんから連絡受けました。よろしくお願いします』


「送信っと」


携帯を運転モードへ切り替えた葛城はカブのエンジンをかけた。

プルンッ……トントントントン……

静かなのは良い事だけど、もう少し刺激が欲しい。


調べてみるとスーパーカブのスポーツマフラーは数多く出ている。

ところがそれは50㏄用の物が殆どだった。


「これも生産終了。こちらは在庫切れ。これは値段が高すぎるから買えない」


寝る前に少しだけ調べてみようかと開いたノートパソコン。

画面を見ていても溜め息ためいきしか出ない。


カブのスポーツマフラーは沢山あるけど殆どが燃料噴射式となった最終型の物。

もしくはキャブレター時代の50㏄の物ばかり。


キャブレター時代のカブ90の物は少ない。50㏄用の物も付けて付かないはずは無い。

ステーの穴を加工すれば付くのは解った。


問題は音量。50㏄用で規制適合したマフラーでも排気量が1.8倍となっている自身のカブに付ければ、きっと排気音は大きくなるだろう。


「白バイ乗りが爆音マフラーはマズイよね」


こういう事は大島のおじさんの方が詳しそうだ。何か知ってるかもしれない。

もしかすると在庫で持っているかも。


そんな事を思いながら葛城は眠りに就いた。


翌日

閉店間近であろう大島サイクルへ寄ると話し声が聞こえた。


「もうすこしパンチが欲しいのよね……何か無い?」

「でも、その条件やと限られますよ」


「こんばんは。何かあったんですか?」


眉間に皺を寄せて話している2人に声をかける。

リトルカブの納車らしいが、磯部さんは何やら不満が在るらしい。


「ゼファーと比べちゃ駄目かも知れないけど、静かすぎて」

「これでも社外マフラーなんですけどね」


「センタースタンドも使いたいし、うるさいと職場に乗って行けないし」

「JMCAの政府承認でセンタースタンドが使える。それでいて90のエンジン対応。

R社のマフラーかなぁ、う~ん、在庫で在りますけど、3万円以上しますよ」


「思い切って買っちゃおうかな。交換して乗って帰れますか?」

「じゃあ、コーヒーを淹れるで飲んで待っていてください。

 葛城さんはココアの方が良いかな?」


丁度良い所へ来たようだ。


「じゃあ、そのマフラーを私のカブに付けてくださいっ!」

「政府認証と違うけど大丈夫?」


JMCAじゃないから葛城さんには勧めなかったと言う大島を

何とか説得してマフラーは葛城の物となった。


「よっしゃ。ついでや」


大島は腕まくりをして作業に取り掛かった。大島が提示した値段は葛城の手持ちで足りる様な金額だった。


「そんな値段で良いの?」

「ジャンクの車体に付いてきたマフラーや、かまへん」


磯部さんとメイクやファッション。色々な事を話しているうちに

マフラーの交換作業は進んで行った。


男が多い職場で働く葛城にとって女性とのトークは新鮮で楽しかった。


葛城は友人が出来た事を喜んでいた。だが、磯部は違ったようだ。


磯部の少し赤い頬は流行のメイクと思っていた葛城。

それが間違いだと知るのはもう少し先の話である。

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