第47話 雑誌に載った

先月、参加したイベントのパワーチェックはバイク誌が取材に来ていた。

コスプレしてウケを狙った葛城さんと理恵が載っているそうなので、

商店街唯一の本屋、玉垣書店で早速買ってきた。


「お…きれいに撮れてるな…顔は写ってないけど」


パワーはそれほど出ていなかったけどコスプレは受けたみたい。

クラス下位だけど、少し大きい画像で載っている。


(TEAM大島サイクル……か)

チーム名はも3人が決めたのだろうか。店の宣伝になった。


商売っ気は無い大島だが店の名前が出るのは少しうれしいのだった。


( 理恵と葛城さんにも教えておこう)


「え~っと、『この前のイベント、雑誌に載っています』 送信…と」


◆     ◆     ◆


同じ日の昼飯時。


琵琶湖を隔てた街のバイク店でも同じ雑誌が読まれていた。


主任チーフ、高嶋の例の店のバイクが載ってますよ」


チーフの中村は雑誌メカニックから雑誌を受け取り目を通した。


「お?ちょっと見せてくれ……なんだこりゃ?」


誌面には腕組みをした葛城と女の子らしいポーズの理恵。

どちらもフルフェイスのヘルメットなので表情は解らない。


「コスプレですね。自動車バラエティとバイク漫画のキャラですね」


若いメカニックは二人のコスプレに注目していたが、中村は

バイクの横に載ったグラフを見ていた。


「それはどうでも良いけどな。グラフを見てみ、きれいなパワー曲線や」


「でも、パワーは普通ですよ?ノーマルみたいな数値ですよ。」

若いメカニックは不思議そうに整備主任の中村なかむらに尋ねた。


「エンジンは純正シリンダー改75㏄と89㏄。ピストンは純正補修用オーバーサイズピストンを使用…か。お前、どう思う?」


「市販のキットを買う方が安く出来ると思います」


「そうやな。何でこんな事するんかな?」


「Tataniさんも出たみたいですよ。うゎ……酷い」

Tataniの客たちの無茶苦茶な改造を見て驚いたようだ。


「お客さんの事を悪く言うのは止めなさい」


とは言ったものの、Tataniの連中の結果は酷い物だった。


「4台のうち3台が壊れて、1台が大島サイクルのカブ以下か」

「排気量110㏄で90㏄並みのパワーですか。変ですね」


「メカニックと何か有ったのかな?」


◆     ◆     ◆


湖西と湖東。2つの店が雑誌を見ていた頃。

今都のセレブリティ―バイカーズTataniは静かだった。

梅雨が明けて以来、年寄り連中は暑がってバイクに乗らない。

乗らなければ壊れることが無いので修理に出す事もない。

『子供に乗らせる』と買って行った親が何人かいたが

その後は何も言って来ない。壊れていないのだろう。


大型・普通自動2輪を原付登録する仕事も止まっている。


「いくら馬鹿でも暑い中バイクで移動するアホはらんわな」


クーラーをガンガンに効かせた事務所で缶ビールを飲みながら

代表の他谷たたにはまどろんでいた。


どこかでサイレンの音が聞こえる……サイレンの音が子守歌に思える。


◆      ◆      ◆


『 ♪~高嶋警察署より、道路通行止めのお知らせです。先ほど国道…』


「あら珍しい。変態と熊以外で防災無線を聞くのは久しぶりやわ」

「この前、火事で鳴ったがな」


国道161号線では大渋滞が起こっていた。


「あれ?何か事故かな?」


湖周道路を走っていた理恵が国道161号バイパスを見ると炎と黒い煙が上がり、

無数の赤色灯が光っていた。


免許を取りたての高校生による単独事故だった。

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