第48話 緊急生徒集会

 国道一六一号線でバイク事故が起きた翌日、大島は新聞を読んでいた。


『高校生がバイク事故』『無資格運転の疑い』『不正登録か』


「ウチのお客さんではなさそうやな。何処のガキや?」


 新聞には衝撃的な見出しと共に事故の様子が載っていた。そんな中、高嶋高校では緊急集会が行われた。


『帰りに速人と一緒に店に寄ります』と理恵からメールが来ている。


 昼過ぎに二人が店に来た。


「ふぅ、暑かった。おっちゃん、何か冷たいもん無い?」

「倒れるかと思いました」


 二人は汗を拭きながら店に入ってきた。この暑い時期にマスコミ関係をシャットアウトするために体育館の窓を閉めた状態で集会が行われたそうだ。


「いったい何が在ったんや? バイクはグシャグシャになって燃えてしもてるし、乗ってた子は死んでしもたらしいがな。どこの子やいな?」


「今都の……ちょっとアレな奴だったんだよね」

「お金持ちで高貴な家の生まれって言ってる奴でしたけど……」


 扇風機に当たりながら答える二人の口調は何となく歯切れが悪い。


「大型のバイクに乗ってたらしいんです。でも、原付のナンバーが付いていたんですって、それで今日集会が……」


 速人は説明してくれようとしたけど理恵が止めた。


「言うたらアカンって言われてるやん。おっちゃん、忘れてや」


 珍しく普段とは逆だ。おおよその予想は付いた。Tatani絡みだろう。


「おっさんの所にな、『宅の息子が免許を取ったざます』『時速100㎞出て転ばないバイクをくれ』ってお金持ちが来てな。そんな速いバイクは取り扱って無いって断った」


 氷を入れたグラスにサイダーを注ぎながら話す。


「で、どうなるんや?バイク通学禁止になるんか?」


 何か隠しているのだろうが仕方ない。口止めされている事が有るのだろう。

グラスの氷がカランと音を立てた。


「来週に通学に使ってるバイクをチェックするって」

「警察立会いの検査をするって」


 それなら心配する事は無い。二人とも違反になる改造はしていない。ウチに出入りしているバイクなら問題は無いはずだ。


 ◆        ◆        ◆


 まさかバイクの検査に販売店が呼ばれるとは思っていなかった。


 わが母校、高嶋高校だ。卒業以来初めて来る。バイクを通学に使いたい生徒は申請書に販売店を記入するらしい。学校側からチェックに参加する様にと連絡が来た。


 生徒のバイクは販売店ごとにまとめられて停まっている。警察官とバイク店の立会いの下で違法な改造がされていないか一台ずつチェックしていく。非常に面倒だ。


(速人のモンキーはどうなるのかな? 買ったのはTataniやったな)


 幸い速人のモンキーは大島サイクルの販売したバイクとして登録されている様だ。以前作った両手ブレーキのゴリラや理恵の友達に売った二万円のスクーターも有る。


「マフラーはJMCAですね。申請書によると排気量は七五㏄ですが、シリンダーの刻印は七二㏄ですね。どうしてですか?」


「はい、シリンダー修正してオーバーサイズピストンを入れてます」

「一応、音量測定をしますね」


 JMCA認証の音量規制適合のマフラーだが、メーカーは五〇㏄で認証を取っている。七五㏄くらいなら音量は大丈夫だと思うが死亡事故が起こっているからだろう。今回のチェックは厳しい。


 教師たちは合格車両のナンバー裏に目印のシールを張っていた。今後はこのシールの有無で通学に許可されているか否かをわかる様になる。このシールは剥がすと文字がナンバーに残る様になっている。剥がして他のナンバーに張ることは出来ない。よく考えられている。


 そんな感じでチェックは進んで行く。殆どの生徒のバイクは何も問題は無い。もしも違反したりしたら普通自動車免許を取るときに影響するからだ。バイクで違反を繰り返す生徒は高校が免許取得を許可しない。高校卒業と同時に就職したい場合は非常に困る。


 台数はそれなりに在ったがウチのお客さんのバイクは全車合格だった。何台かはタイヤの溝が無いとか言われているみたいだった。タイヤくらいなら交換すれば良い。


 販売店不明のバイクもあるが、これはオークションで買った物だろう。あまり程度は良くなさそう。プロが整備したバイクとは思えない。


 他の店のバイクも問題無いものが多い。暫くすると時間を持て余したバイク店で交流会のようになった。高嶋・安曇河・朽樹の各店も今回の事故について思う事がある様だ。事故を起こしたのはTataniの客なのは皆知っていた。Tataniの客は市内のあちこちでトラブルや事故を起こしているようで、どのバイク店からも評判は良くない。どの街のバイク店もTatani絡みのバイクは修理依頼を断っているそうだ。


 誰かが「Tataniは来てないのか」と言っていたが、皆が横に首を振った。


「あんなバイクを売ってたら顔を出せんだろう」

「そうやな。あれはアカンやろう」


 どんな生徒が乗っているのか知らないがコピーバイクが有る。妙に長い車体。ギンギラギンの見た目。ウインカーやヘッドライトの灯火類も妙に小さかったり色が変だったりの変なバイクだ。通販でも買えるが、受け取りは運送会社の営業所かフォークリフトが無いと出来ない筈だから一般的ではない。個人で買うのは少し難しい。恐らくTataniが売ったバイクだろう。


 教師数人と警官数人が何かを話し合っている。


「こちらにTataniの方はいらっしゃいませんか?」


 若い教師がこちらへ走って来た。生徒指導担当だろうか。居ないと答えると戻っていった。


「この点検て、意味が有るんかな」 誰かが呟いた。その通りかもしれない。


(ここに来てないバイクの方がやばいんじゃないかな)


 俺だけではない。訪れたバイク店はほぼ全員その様に思っていたと思う。

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