第45話 不審なバイク達②
「だ~か~ら~!原付じゃないって言ってんだろ!」
怒鳴る老人に呆れる白バイ隊員。
「では、大型バイクを原付登録しているのですね?」
大島サイクルの常連、葛城である。
「税金を払うのがもったいないから原付にしてるんだよ!
その位わからんのかボケ~!頭がおかしい奴めっ!」
「では、原付でしたら速度超過70㎞/h。免許取り消しになりますね。」
「だから、原付じゃないって言ってんだろ若造が!俺様はセレブ様だぞ!」
興奮した老人が暴れ出したので葛城は応援を呼んだ。
◆ ◆ ◆
「おじさ~ん。パンクしちゃった~。」
近所の奥さんが自転車を押してきた。
「暑いし影に入り~。すぐ直すわ~。」
タイヤに刺さった金属片を見つけ、チューブを引っ張り出す。
サンドペーパーでチューブを擦り、パッチを当てて穴を塞いだ。
水に浸けて空気漏れが無い事を確認して組み直す。
「おじさん。今日はイケメンさん来ないの?」
※イケメン=葛城さんの事である
「ボチボチ来るころやと思いますけどね。」
(本人が聞いたら泣くで。女の子やのにイケメンて。)
何処からかサイレンの音が聞こえる。鐘の音が聞こえないから消防車ではない。
「イケメンは見るだけで心の潤いになるのよ♡」
(アンタが見てるのは女の子やで。) 心の中でつぶやきつつ
「ここにもイケメンは居るがな。」
と冗談を言って笑いながらパンク修理終了。
ついでにチェーンの張りも調整しておく。
チェーンルブを一吹き。これで当分安心だ。
世間話を少しして奥さんは帰っていった。
夏はパンク修理が多い様に思う。子供が休みだからだろう。
やたらとサイレンが聞こえる。大取り物でもあったのだろうか。
◆ ◆ ◆
「遅いけど良いですか?」
閉店間際に葛城さんが来た。
「はいどうぞ。オイル交換ですか?」
「ん~オイル交換も有るけど、少し話を聞きたいなと・・・。」
何かが有るらしい。
「店を閉めてゆっくり話しますか?」
「そうですね。」
ご近所の奥様方には申し訳ないが、今日のイケメンは非公開だ。
「まずオイル交換・・・と。何か悩みですか?」
「例えばですけどね。大型自動二輪を原付き登録とかできますか?」
いきなり難しい事を言い出す人だな。
「私と知り合いで250のバイクを原付2種で登録した事が有りますよ。」
「簡単に出来るものですか?」
「いや、エンジンを載せ換える時点で一苦労でした。登録する時も陸運局に問い合わせたり役所で揉めたり一苦労やったらしいです。」
「エンジン載せ替え?」
「そう。エンジンが無い車体やったからカブのエンジンを載せて。」
「書類は?」
「その辺りは高村ボデーさんがやったから解りませんけど登録は出来たんでしょうね。」
「そのバイクって見る事出来ますか?」
「聞いてみよか。」
高村社長に電話すると「すぐ観に来い。」とのことでだった。
「どうや兄ちゃん。面白いやろう。」
胸を張る高村社長。
部品取りだったとは思えない美しい車体だ。
「エンジンはカブですね。」
「そうや。大島君に頼んで積んでもろた。元のマウントに
ボルトオンのアダプターを付けてな。配線もしっかりして
灯火類は全部点く。」
「これだったら原付2種登録でOKでしょうね。」
「そうよ。そこらじゅうに問い合わせて作った力作よ。」
こちらを見てニヤリとする高村社長。
何となく社長の掌の上で踊らされている気がする。
「登録の時ってどんな感じでした?車体確認は有りましたか?」
「いや。車体番号の石刷りやエンジン周りの画像も持って行ったけど
見せんでよかったな。せっかく用意したのに。」
(ここまで改造した車体でも確認しないのか。)
一通り車体を見た後、葛城さんは帰っていった。
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