第43話 右足を使わず乗れるバイク
理恵が連れてきた
確かに「以前、剣道をやっていたんですけど右足首を痛めてしまって」と言いながら見せてくれた右足首には手術跡が在った。中学生の時は強い選手だったそうだ。剣道部主将になり、礼儀作法が成っていなかった剣道部をまとめていたらしい。
だが、顧問は礼儀作法など不要と考える結果主義だったそうで、足首を痛めてから思う様に成績が残せず苦悩していた藤谷さんを「成績が悪い選手ゴミは要らない。退部処理しといたから」と、無断で退部手続きをして追い出したらしい。何とも今都らしい話だ。
「普段の生活では大丈夫ですけど、体調によっては痛くて」
「スクーターは駄目かな?両足フリーになるけど」
「オートバイらしい形のバイクが良いんです」
母の勧めで受けた高嶋高校。家から近い。中学の同期にあまり会わない。そんな消極的な理由で入学したのだが、中学校と同じ今都に在るとは思えない楽しい雰囲気だったらしい。クラスに馴染み周りが見えるようになった頃、楽しそうに小さなバイクに乗って学校へ来る理恵を見つけて興味が湧いて声をかけたそうな。
(どこまで本当のことを言ってるのかな。怪しいな)
バイクの免許を取りたくなったので母親に言うと、普通の母親からすれば反対になるはずだが、何せ母親自身がバイク乗り。
「あんたも少しは馬鹿な事をしなさい」と積極的だったそうな。
そこで「せっかく取るんだから」とMT車で免許は取ったが教習中も右足首は痛み、熱を持つ日が有ったらしい。
「そう言えば、いつやったかな?理恵がオートマのモンキーが出来ないか聞いて来た事が有ったな。この子の為か?」
「うん、おっちゃんに聞いた後でネットでも調べた」
「二人で調べたんですけど、やっぱりエンジン自体が少なくて」
シャリィATのエンジン&ミッションには何らかの問題が有ったと聞いた事が有る。それがカブが完全オートマチックミッションにならなかった理由だと聞いた。まぁあくまで噂の範疇でしかないが。
「あのなぁ、オートマでもモンキーのブレーキは右足やぞ」
「両手でブレーキ操作をするモンキーが有ると聞きました」
(そんなプレミア価格の付いたモンキーは扱えんな)
「あと、オートマエンジンは変な所が壊れるって出てた」
そんな話は聞いた気がする。
「メーカーさえこだわらなければストリートマジック一一〇なんてバッチリなんやけど、生産終了から長く経ってるしな……」
「初心者にスズキはきついでしょ?やっぱりホンダよ」
お母さんに却下された。
スズキは個性的なバイクが多くコアなファンがいる。面白いバイクは多いが初心者なら癖の無いホンダの方が良いか。
「じゃあ、オバちゃんは何でヤマハなん?」
理恵は妙に鋭い所を付く。
「ひ・み・つ♡」
なかなか愉快なお母さんだな。
「ところで、二人の名前を教えてもらわんと。『娘さん』『お母さん』では呼びにくいで」
「私は
「よろしくお願いします。」
美しい礼だ。でも、何故だろう? 何かしっくりこない。
「藤谷久子さんに華さんやね」
新しい常連さんになるのだろうか。だが、違和感が有る。
(理恵の紹介とはいえ、ウチのルールには従ってもらわんとな)
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