第42話 理恵の知り合い
大島サイクルでは引取り修理をしていない。
大島が一人で営んでいる店なので引き取りに出ると
店が留守になる。防犯上よろしくないし、飛び込み修理の客は困ってしまう。
・・・と言う事にしてある。
実際は今都の高級住宅地の連中を相手にしたくないだけだ。
難癖着けて整備代を踏み倒されそうにされてから二度と相手にしない事にした。
今都の人間が全部が全部悪いわけでは無い事は解っているつもりだ。
だが、一部の人たちが強烈過ぎた。
「おっちゃんは今都の人が嫌いなん?」
鋭い質問をするのは理恵である。今日はゴリラに前カゴを取り付けに来た。
「一括りするのは良くない。嫌な奴が嫌なだけや」
「じゃあさ、私の友達を連れてきてもOK?」
「連れてきても良いけど、今都にもバイク屋はあるやろう?」
「古いバイク屋さんと嫌なバイク屋しかないもん。」
「そうやったかいな?どっちにせよウチは引取り修理を やっていないし、
満足なサービスは出来ひんやろな。 止めといた方が良いええんと違うか?」
「おっちゃん。ホンマは今都が嫌いやろ?」
「何を好き好んで今都の連中と付き合わんとアカンのや?」
そんなやり取りが有った翌日。
「おっちゃん、来たで~」
理恵の声が聞こえたので見ると理恵のゴリラと何やら
オフロード用のバイクが見えた。ヤマハのセローである。
ちんちくりんな理恵と対照的なスラリと手足の長い女の子が
タンデムシートから降りる。クールビューティーな娘さんだ。
「いらっしゃい。」
「隣のクラスの
「こんにちは」
理恵とは違い、落ちついた娘のようだ。
(何やろうな、この違和感は)
乗って来たセローは平津オートやTataniが相手するバイクじゃない。
ヤマハのバイクを触る店は車輪の会に無かったと思う。
だとすると志賀町辺りにあるバイク店の客か。
スタンドを降ろし降りてきたのはお姉さんだろう。
ヘルメットを外すと・・・ありゃ?お母さんか。
「おばちゃんは元々安曇河の人やって」
「立ち話も何ですし、中へどうぞ」
◆ ◆ ◆
「娘とツーリングするのが夢で、バイク免許を取れる高嶋高校へ
行かせたんです。」と藤樹さん(母)
親の夢を押し付けるのはいかがなものかと思うが、
高嶋高校へ行くのは悪くない。比較的自由な校風と学力に合せた
コースを選べるのでいろいろな進路に対応できる。
「それに安曇河高校は今都の子が多く行きますし・・・」
今都の中学生は私立校や安曇河高校の進学校に行く事が多い。
安曇河高校はよく解らないが高嶋高校に対抗していた。
全クラス進学コースで学力レベルは高いと言われている。
ただし、落ちこぼれてしまうと救われない。
落ちこぼれた者を受け入れるクラスが無いのだ。
万が一落ちこぼれたら、そこでお終い。中退するしかない。
それを心配する親御さんは高嶋高校へ進学させる。
「でも、ウチは引取りはしていません。修理が必要でも取りに行けませんよ」
実質、断っているのと同じである。正直、今都は嫌いだ。
「いいですよ。ウチは軽トラもラダーも有るし。
自分で出来る所は普段は自分で直していますから」
話を聞けば、自宅にはそれなりの工具が揃っているらしい。
自分で修理が出来るプライベーターって奴だ。
それならオークションで車体を買って直せばよいと思うが。
ではなぜウチに来るのだろう?何となくスッキリしない。
「お嬢ちゃんはどんなバイクが欲しいのかな?」
「理恵ちゃんみたいな小さいバイクで・・・」
(だとすればレジャーバイクか・・・)
「右足を使わないで運転できるバイク」
「右足を使わない?」
右足を使わないで運転できるバイクを所望か・・・。
(2種スクーターでも買えば良いんじゃないかなぁ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます