第40話 苛立ち

原動機付き自転車1種の排気量を50㏄以上90㏄未満に

改造した場合は黄色ナンバーに変更。


では、250CCの軽自動二輪に90㏄のエンジンを積んで

排気量を下げた場合はどうなるのだろう。


「125㏄以上250㏄未満の軽自動二輪車のエンジンを積みかえた。

積み替えたエンジンは90㏄未満なので原付2種で登録したい」


と言っただけなのに窓口が騒がしい。

(まったく・・・この市の職員はなっとらん・・・)


廃棄処分するはずだった古いホンダCBRに

カブのエンジンを積んだ『狼の皮を被った羊』


ようやく完成したのだから道で走らせてみたくなった。


陸運局に問合せをしたら「市役所で登録してください」

と言われたので市役所に来たのに。


「前例が無い。わからない。どうなってるの?」


終いには面倒になって追い払おうとしたのだろう。

「盗難車じゃないでしょうね?」と言って来た。

残念だが警察に照会して盗難車ではない事は解っている。


「あなたには私が盗人ぬすっとに見えるわけですね?」

こういう場合は激高するのではなく静かに聞き返す。


「いや・・・そういう訳じゃなくって・・・」

しどろもどろになって答える市の職員。


「本庁へ行った方が早いですね?」


「はぁ・・・多分」


結局、~真旭しんあさひにある市役所本庁まで行き手続した。

エンジンを載せ換えた経緯を書く必要は有ったが、

予想外にすんなりナンバーをくれた。


『エンジン破損。修理を試みるが、部品調達が困難。その為他形式のエンジン

に積み替え。排気量変更。それによる登録区分の変更の為』


現車確認は全く無かった。


やっとの事でナンバー登録出来た。

「登録も大島に頼めばよかった」

高村は市役所を後にした。


※           ※           ※


「と言う事で、無事にナンバーを貰えたわけや」

「そうですか。登録出来ましたか。良かったですねえ」


真新しいナンバープレートを見せながら笑う社長に

アイスコーヒーを出しながら相槌を打つ。


「最近はお勉強が出来て市役所に入った連中ばかりやな。

応用が出来ん奴ばっかりで困る。そもそも職員に覇気が無い」


「合併以降ですよね。職員の質が低下したのは」

「安曇河町時代は元気やったけどな。合併後に変になったな」


「で、どうでした?車体の確認とかは有りましたか?」

「全く無し。Tataniが無茶な事を出来るはずや。あれは、そのうち問題になるで」とコーヒーを一口飲んで社長はぼやいた。


「で、社長。工場は放っておいて良いんですか?」


「あいつらはわしが居んくらいで仕事をサボったりはせん。

たまには煩いもんがおらんくらいの方が仕事は進む」


「少し疲れたから休ませてくれ。」と社長が珍しい事を言ったので

休憩所のスペースを提供した。


会社ではゆっくり休めないのだろう。しばらくすると

鼾いびきが聞こえ始めた。


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