第2話 敵対

 唐突だが、僕には親と対面したことがない。

 恐らく捨てられたのだろうが、今更親なんて欲しいとも思わないし、たとえ会えたとしても「何故捨てたのか」など問い詰めもしないだろう。

 最初からなかったものに執着などしない。


 僕を拾った『師匠』曰く、日本の人目のつかない路地裏で捨てられていたらしい。

 拾った理由はなんとなくらしい。


 それから師匠に『クラウン』と名づけられ、猛特訓の日々が始まった。

 移動音や生活音を消す訓練だったり、戦闘訓練だったり、傭兵やる上で必要ない事だったり、とにかく何から何までやった。


 それから10年、師匠曰く、一流の傭兵レベルの強さは手に入れたらしい。

 まぁ、そんな内容の置き手紙を残して消えたわけだ。その手紙曰く、家に依頼者クライアントが来るから様々な依頼を受けろ。と。


 師匠の指示通り様々な依頼を受け続け5年。

 日本での依頼を済ませ、日本の拠点に戻っている時には起こった。


――――――――――――――――――――――――――――


日本の渋谷を歩くクラウン。


「いやー、日本はいいねぇ。そう思わんかね相棒?」

「同感だがその呼び方は止めろ。名前で呼べ、名前で。」

「やだ。まぁ、アメリカとか中国みたいな量は無いが質はいいからね。大胆じゃなくて程よい感じがまたいい」

「そうか?俺は甘いなら激甘、辛いなら激辛にして欲しいし量も欲しいからな。日本は合わんさ。」


 一人の小柄な日本人ともう一人の大柄なアメリカ人が談話してるのはさぞ珍しいのだろうか。さっきから、ちらちらクラウンたちを伺ってくる人が何人も居る。大方、この相棒がペラペラと日本語が喋れていることを不思議に思っているのだろう。


「クラウン。いいのか?こんなに目立って」

「いつもの事じゃん?まぁ、仕事の時と雰囲気も身のこなしも違うだろう?」

「…そうだな」


 観念したように肩をすくめる相棒


「ん?おいクラウン。暴走トラックだ。」

「あぁ。あと左斜め前のビルの屋上に監視がいる。いつからばれてた?」

「だから変装しろと言ったろうに、まぁいい。俺は上の制圧に向かう」

「りょーかい」


 そうして相棒は地面を蹴って跳び上がり、壁を登っていたが、周囲の群衆は突っ込んでくる暴走トラックにしか目が行っていないようだから誰も跳んで行った相棒に気が付いていないようだ。まぁ、夜だから見えてないのかもしれないが。


(この運転手完全に目が血走ってやがる。)


 完全に殺す気で来ているらしいのでクラウンは足元にあった小石をトラックの誰も居ない助手席に蹴り、窓ガラスを粉砕した。

 小石は衝撃で気化したらしい。そのまま助手席に飛び乗り、割れた窓ガラスに手を掛け、手ごろなサイズに割り、十分に尖った窓ガラスの破片で 声帯を突き刺し、ハンドルを無理やり弄り、すぐそこにある電柱に真正面からぶつかる様に軌道変更する。

 そのままかなりの勢いで暴走トラックの真正面から飛び出し、そのまま相棒の登っていたビルをクラウンも駆け上っていく。


 この間僅かコンマ5秒である。



「よぉ。梃子摺ってんのか相棒」

「お前が早すぎるだけだ。」


 どうやら敵は5人ようだ。


「加勢しよう」

「必要ないね!」


 という言葉がクラウンに届いたや否や、相棒は飛び出し、そのまま奥に居た小柄の男の顔に一撃かます。

 ていうかもう、一発かますどころか頭吹き飛ばしているのだが、相棒が完全に敵と判断したようなので、止める必要は無いだろう。


 しかしまぁ、良く街中で堂々と襲ってきたな。

 っと、相棒がこちらに一人飛ばしてきたのでそれをキャッチし、気絶しない程度に背中から地面に叩きつけ、リュックサックから取り出した杭で手足を突き刺し、地面に固定した。


「くっ…」

「おっと。この薬は回収だ。」


 と言いつつクラウンはそいつの口の中にあった薬を回収した。

 恐らく致死性のものである。


「で?吐いてもらおうか。何故俺たちを襲った?」

「・・・」

「だんまりね。相棒、終わったか?」

「あぁ。骨の無い連中でつまらなかったな。…相変わらずお前の拷問は悪趣味だな」

「持ち合わせが大量にあるんでね。で、下の奴がまだ生きている。頼む」


 m700をリュックサックから取り出し、相棒に渡すクラウン。


「相変わらず色々とおかしいなそのリュック」

「当たり前だ。師匠と僕の合作なんだからおかしくて当然だ」


 割と真剣な顔で銃を受け取り下―さっきクラウンが制圧したトラック―をスコープ越しに覗く相棒。

 さて、とクラウンはさっき地面に縫い付けた男を見た。


「さぁ、分かってるな?」

「・・・」

「まただんまりか。だんまりほどつまらないものは無いぞ?」


 クラウンは二の腕を掴み、そのままへし折った。


(ん?この感触…骨の折れ方…人間ではない)


「お前、人間じゃないな。」

「…っ!?」

「ならなんだろうな?そもそもそんな人間じゃないような奴らが何故日本に居るんだ?ふむ・・・骨の構造が人間とも獣とも違うから人間と獣の合成獣キメラってのは薄そうだな。だとすれば、元々このような骨格の種族が居たと言うこと。つまり、僕のあったことが無い種族。そんなの空想上の生き物にしかありえない。キメラって線を排除して、人型。つまり天使か悪魔、又はその上位互換しか居ないわけだ。だがお前は弱すぎるから神やその類ではない。よってお前は天使か悪魔、お前の持つオーラからすると天使だろう。」

「何!?偽装は完璧だったはず!」

「僕のの前では無駄だよ。しかし、お前も馬鹿だなぁ。只の現実味が無い馬鹿なお喋りだったんだが、ね?」

「くっ・・・」


 悔しそうに。と言うかやってしまったしまったというかそんな表情を浮かべる男


「さて、お前の上には恐らく神なる存在が居るはずだ。そいつは何がしたい?」

「…時は満ちた。起動バースト

「ん?…っ!!相棒そっから飛び降りろ!話は後だ!!」


 その男から得体の知れないエネルギーがもれ出てきている

 いや、その男自身からではない。男の着用しているペンダントからだ。


 相棒は何のためらいもなくそこから落ちる。

 クラウンもそれに倣い、落ちる。


 更に、クラウンは落下中に光学迷彩とワイヤーアンカーを取り出し、光学迷彩を着用し、向かいのビルにアンカーを射出し、真下から斜め下に方向転換する。

 そのまま地面に着地し、アンカーを回収する。

 相棒は、まぁ、何とかなるでしょ。

 そして相棒も着地する。


「相棒、行くぞ。ポイントJ(日本の拠点のコードネーム)だ。」

「おう。走りながら説明してくれ。」


 そして、オリンピックの短距離走ばりの速さで走り出す。


「今回の襲撃では素性は知らんが神なる物が関与してる事が分かった。」

「なんとも質の悪い状況だっての。で?どうするんだ?」

「今回の敵は神だ。だが秘策がある。恐らく敵は大量にユニットを投入してくるだろう。それを撒くなり退けるなりしてJまでたどり着ければ僕らの勝ちだ。」


 だが、用心してたにもかかわらず、道中には敵はいなかった。

 あっさりと拠点についてしまった


「入るか?クラウン」

「あぁ。だが用心しろ」

「了解」


 念のためクラウンはリュックサックから抜き身の刀を取り出す。

 しかし、拠点の中にも敵がいなかった。


「不気味だな?」

「そうか?」

「システム!」

『・・・起動完了。いかがされましたか?』

「早急にここら一帯の人の形をした人間ではない者をサーチしてくれ。」

『了解。・・・照合完了。結果を正面のディスプレイに表示します。』


 システムの索敵サーチによれば、戦闘を行ったところを中心に『天使』達が大量に湧いているらしい。


「やばそうだな。本体がでてこないうちにアレを」

『・・・了解』

「俺は構わんよ。クラウン、お前についていく。」


 コトッ。と、机の上に一見スマホと思しきものが落ちる。


「少々名残惜しいが・・・まぁいい。師匠と僕の研究の成果の確認としよう。相棒、僕の肩をつかめ。」


 黙って肩を掴む相棒。


「よし。やるか・・・転移装置、起動」


『Good Luck』




そのまま視界が無色、本当に何も色が認識できない無色に包まれた。

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