Mercenaries of the world―世界を跳び回る傭兵―

風来猫 七昼

第1話 とある政治家の手記

 彼の者は傭兵である。

 しかし、只の傭兵ではない。


 彼は、依頼と言う依頼全てを失敗したと言う記録が無い。

 彼の周囲の人間、主に傭兵仲間や、良く依頼を出していた富豪の残した記録によれば、普段は温厚な人間だが、依頼になると、とても冷酷な人間になるそうだ。

 例を挙げるなら、暴力団のリーダーの殺害と言う任務があるとする。この場合、リーダーを殺せば、団員の生死問わずに任務成功だが、もちろん団長を殺そうとすれば団員は現場を目撃した場合に限り抵抗する。その団員を容赦なく斬り捨てるどころか、同じく依頼を受けた傭兵が大変な足手まといと感じた場合も、斬り捨てたそうだ。


 彼は例え仲間であっても、足手まといは敵。依頼遂行の障害となる者は敵。

 この方程式が成り立っている。このようなものが温厚ならば、全世界の人々の半数が温厚ではないかと思うかもしれない。だが、彼は依頼を受けた途端、人格が切り替わったかのように変化するのだ。私も最初は耳を疑ったものだ。


 しかし、これだけでは只の優秀な傭兵ではないかと、思う人も居るだろう。

 彼は、標的の殺害や護衛だけでなく、狙撃や潜入、施設への破壊工作等、様々な種類の依頼を成功させてきた。

 傭兵間では、どんなヒレの付けかたをしたかは知らないが、核爆発さえ耐え忍んだと言う噂が、逸話として流れている。


 が、そんな彼は、突如にして消えた。

 今更彼がそこら辺の傭兵に遅れを取るはずもない。ならば、もう傭兵から足を洗ったのかもしれない。

 いくつもの、組織が全勢力を挙げて彼の捜索に当たったが、失踪から10年が経った今でも、発見されていない。まぁ、彼のことだ。死んではいないだろう。

 だからまぁ、不思議であるのだ。


 彼は、失踪当時はまだ15歳の少年なのだから。

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