第五十七話 ブタっぽい俺の最終決戦④ ブタとアメちゃん
ケモ耳娘と貴族娘の手を引きながら、丸焼き広場から逃げ出そうとしている狼獣人の背中を見送りながら、安堵の吐息をついた俺は、この場に護るものがいなくなったために、ビーフに全神経を集中させる。
「くっそっがぁっ。牛の、たかが牛肉の分際でぇっ調子に乗るなってんだ! 必殺っ百裂肉弾張り手ぇっ憤怒らばあっ!」
ペチペチペチペチと、俺の張り手の雨がビーフの鼻っ面にペチペチペチペチと当たる。
「ブモオオオッ」
ビーフは鼻がむず痒そうな鳴き声をあげながら、俺の手を煩わしそうに鼻先で押しのける。
たったそれだけで、俺の体は後ろに大きく吹き飛ばされた。
「くっそがぁっまだまだぁっ」
気合いの声を上げながら立ち上がると共に、戦いの中で加熱した俺の脂肪(カロリー)が白煙と共に燃え上がり、俺の全身を真っ赤に染め上げる。
「食らいやがれ牛野郎! 超必殺、赤ブタァ仁王張り手ぇええっ憤怒羅ばあっ!」
ドッゴオォォォンッと地響きが鳴り、踏み込んだ足が地面を陥没させるほどの強烈な張り手をビーフの鼻っ面にお見舞いする。
これならどうだ! 自分自身会心の一撃だと思えるほどの張り手をビーフの鼻っ面にぶち込んだ俺は、内心これで決まったと思って、にやりとほくそ笑んでいたのだが、俺との体格差が百倍以上あるビーフにとっては、俺の渾身の仁王張り手程度では、子ブタの小鼻で押された程度のダメージすら負っていないのか、まったくのノ—ダメージのようだった。
そればかりか、ビーフは俺の仁王張り手を受けた鼻っ面がむず痒かったのか。
「ブモ――――ッ」
物凄い鼻息を俺に向かって吹きかけてきた。
ビーフの鼻息をまともに喰らった俺は、整形肉を加工する時に出るちんまいクズ肉の様に、何の抵抗もできずにあっさりと吹き飛ばされていた。
「ブヒヒヒヒーンッ」
ブタの悲鳴を上げながら勢いよく吹き飛ばされて地面を転がっていった俺は、悲鳴を上げ地面を勢いよく転がっていったせいで、口にくわえていた巾着袋を離してしまう。
俺の口から離れた巾着袋は、辺りに幾つもの梅干し大のビー玉のような蜂蜜飴をばら撒きながら、鼻息に乗って飛んでいった。
そして、ビーフの鼻息によって惨めに地面を転がってっいった俺を視界にとらえたビーフは、ようやく狙っていた獲物を食うことができるといった感じに悠々と舌なめずりをしながら立ち上がると、俺の方に向かってゆっくりと歩み始めた。
ビーフの鼻息のせいでしばらく地面を転がりながらも、日ごろのサバイバル生活によって養われた野生の勘(牛肉の香り)によって、ビーフが俺の方に迫ってきているのを感じ取った俺は、その場に立ち上がってビーフを迎え撃とうとするが、鼻息によって地面を転がされていたために、俺は乗り物酔いの様に目を回して、その場にまともに立つことすらままならなかった。
さすがに終わりか。と、俺に向かって迫りくる城の様に巨大なビーフの巨体を見つめながら、俺が覚悟を決めていると、ふと俺に向かって歩を進めていたビーフが歩みを止める。
突然動きを止めたビーフの挙動を不審に思った俺は、ビーフの視線の見つめる先を目で追っていった。
俺が追っていったビーフの視線の先には、俺がビーフの鼻息によって吹き飛ばされた衝撃で、ばら撒いてしまった黄金色に輝く幾つもの蜂蜜飴が転がっていた。
まさかあの牛野郎! 俺のアメちゃんを狙ってやがるのか!? 本能的にそう感じた俺は、乗り物酔い(ビーフの鼻息酔い)でフラフラする視線を、けん制するように蜂蜜飴を見つめるビーフへと向ける。
ビーフは俺がけん制する視線を向けているにもかかわらず、俺の落としたあんまい蜂蜜飴へと手を開きながら、その巨大な腕を伸ばしたのだった。
「それはぁ俺のぉアメちゃんだぁあっ!」
ビーフに蜂蜜飴が食われそうになった俺は、声を大にして叫びながら、今の今まで乗り物酔いの様にふらついていたのが嘘のように、信じられないほどに加速して、地面にぶちまけられた蜂蜜飴をひとつ残らず拾い口の中に放り込むと、地面に投げ出された袋の中に残っていた十数個の蜂蜜飴も、ビーフに喰われないように無理矢理口の中に押し込んだのだった。
俺の動きを見ていたビーフは、自分が食おうとしていた蜂蜜飴を独り占めした俺が気に喰わなかったのか。
「ブモモモモォオオオオーーーッッ!!!」
俺に向かって怒りの怒号を上げると共に、手を大きく開き横殴りに腕を伸ばして掴みかかってくる。
そして当然本気のビーフが伸ばして来た腕の速度を上回るほどの動きが、今の俺に出来るはずもなく、俺は至極あっさりとビーフの腕に握りしめられてしまったのだった。
「例えどんな目にあおうとも、このあんまいアメは俺だけのもんだぁぁぁあっっっ!!!」
俺は食い意地の張った強き意思の光を瞳に宿すと、口の中にこれでもかと詰め込んだ蜂蜜飴をボリボリバリバリと噛み砕き始める。
俺が口の中に入れたすべての蜂蜜飴を無理やり噛み砕いていたのを、俺を握り締めながら目にしていたビーフは、怒りのままに俺を口の中に放り込んだのだった。
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