第五十六話 ブタっぽい俺の最終決戦③ ブタVSビーフ

「ブタさん!」


 俺は警告の意味合いの込められた自分のことを呼ぶケモ耳娘の声を耳にしながらも、その声には答えずに、ビーフの鼻先を受け止める両手の平に力を込める。


「ふんぬらばああああっっっ!!!」


 俺は気合いの声をあげてビーフの鼻っ面を押し戻そうとするが、あまりにもビーフとの体格差と地力が違いすぎてズズズズズと、相撲の寄り切りの様に地面をえぐりながら押し込まれてしまう。


 まずいこのまま押し込まれたら俺の後ろにいるケモ耳娘を巻きこんじまう。


「は…やく、俺が持ちこたえてる間に、逃げろ……」


「でもっそれじゃブタさんが!」


「邪魔だって言ってんだろうが!」


 ビーフの鼻先を受け止めながら、俺が怒号を上げる。


 俺の怒号を聞いたケモ耳娘は、あまり本気で怒鳴られることになれていないのか、少しだけ体をこわばらせるも、その場に足を踏みとどまらせて反論してきた。


「またブタさんを置いて逃げ出すなんてわたしにはできないよ! ブタさんっ私も一緒に戦うよ!」


 ケモ耳娘は小さな爪と牙をむき出しにしてビーフを睨み付ける。


 正直今の今まで道行く人や子供からリアルオークがファンタジーから抜け出てきたとか。ブタがブタ肉を食ってる共食いだ。とか、さんざん言われてきた俺にとって、ケモ耳娘の、ナポリタンの言葉と気持ちは心底嬉しいものだった。


 だけど、だからこそっこれ以上ナポリタンを危険な目に合わせるのは嫌だった。


 だから俺はあえて言うことにした。例え暴言を吐いてまた嫌われるようになったとしても、ナポリタンを命の危険にさらすわけにはいかないと思ったからだ。


 そしてこれがナポリタンからもらった言葉と気持ちに報いる行動だと信じて。


「邪魔だっつってんだろうがぁ! それにぃこの牛はぁ俺の獲物だって言ってんだ! 俺の獲物を横取りしようってんなら、子供だろうと容赦しねぇぞっさっさとこの場から立ち去りやがれぇっふんぬらばぁぁぁぁ!」


 俺はできる限りの怒号を上げて、ナポリタンをこの場から遠ざけようとした。


 それでもケモ耳娘はこの場から、かたくなに俺の傍から離れようとはしなかったが、俺の意をくんでくれたのか。ガルムと呼ばれている狼の獣人が獣娘に声をかけて腕を掴む。


「ナナリー逃げるぞ!」


「でもお父さん!」


「まだわからないのかナナリー! こうなってしまった以上、俺たちがいたらブタにとっても足手まといだ!」


「さぁヒステリア様も!」


 オルガは残ったもう一方の手でヒステリアの腕もつかんだ。


「けれど」


「ヒステリア様!」


 オルガの強い意志のこもった眼光に睨み付けられて、さといヒステリアは、自分がこの場にとどまっていては、ブタ(俺)の足手まといにしかならない。本当に自分はこの場に居ては、ケモ耳娘と同じく俺の足を引っ張るだけだと理解すると、オルガの言葉に頷き返した。


「わかりましたわ。けれどオルガッこれだけはブタ様にお渡しいたしますわっブタ様っどうかこの蜂蜜飴を受け取ってくださいまし!」


 貴族の娘はそれだけ叫ぶと、俺の口に向かって手の平大の巾着袋を投げてよこした。


 俺は投げられた巾着袋の中身が先ほど食べた甘いアメだと分かるや否や、ビーフの鼻を押さえつけながも何とか、口を大きく開けて受け止める。



「ブタ様ッどうかご無事で!」


「よろしいですな」


 オルガに問われると、蜂蜜飴を俺の口に放り込んだヒステリアはコクリと頷いた。


「すまんブタ殿! 無力な我らを許してくれ!」


「ごちゃごちゃ言ってねぇでとっとと俺の牛の前から消えやがれぇっ!」


 俺が罵声を浴びせているにもかかわらず、オルガは俺に対して軽く頭を下げると、俺に背中を向けてナナリーとヒステリアの手を引きながら、駆け足で丸焼き広場の出口へと向かって行った。

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