第五十五話 ブタっぽい俺の最終決戦② 目覚めたブタと暴食王

「ここ……は?」


 意識を取り戻した俺は、口の中に入っている甘い蜂蜜飴を舌の上で転がしながら、うすぼんやりと浮かび上がる小さな人影たちに問いかける。


「ナナリーさんッブタ様が意識を取り戻しましたわ!」


「はいっヒステリア様!」


 俺の意識を取り戻すことに成功した小さな二つの人影たちは、飛び跳ねるようにパーンッと両手を合わせて喜び合った。


「と、喜んでいる場合ではありませんわナナリーさんっ急いでブタ様の体を縛り付けているロープを切らなくてはっ」


「はいっヒステリア様っブタさん待っててねっ今ロープを切って自由にしてあげるから!」


 ヒステリアとナナリーの二人は頷き合うと、俺の体を丸焼き機に縛り付けているロープをヒステリアは懐から取り出したナイフで、ナナリーは獣人らしく自分の爪と牙を使って切り始めた。


 俺は俺の手足を縛り付けるロープを必死になって切り裂いて、俺を助けようとしてくれる金髪巻き毛の綺麗な衣服を身に着けた貴族っぽい女の子や長い黒髪に、小さな獣耳を生やし、麻の服を身に着けた女の子二人の姿を目にしながら、徐々に自分が置かれていた状況を思い出していった。


 そうだ。俺は確か貴賓室でうまいもんをたらふく食って、満腹になった腹を撫でまわしながら貴賓室(地下牢)で爆睡してたんだ。


 んで、眠ってから目を覚ましたら、眠っている間にいつの間にか丸焼き機に縛り付けられて体の身動きを封じられていて、火で炙られてたんだ。


 で、丸焼き機に縛り付けられていて、身動きの取れないまま火で炙られていた俺は、火で炙られるあまりの熱さに、そのまんま意識を失っちまったんだ。


 ってことは、綺麗な服を着ていて貴族っぽい女の子やケモ耳娘に俺は命を助けられたのか?


 俺がぼんやりする頭で考えごとをている間にも、ビーフが丸焼き広場の中央に置かれている丸焼き機に縛り付けられている俺に気が付くと、俺を縛り付けている丸焼き機を凝視する。


 そして巨大な牛鼻をブモブモと鼻息荒くうごめかせると、念願の獲物を見つけた獰猛な肉食獣を思わせるように舌なめずりをして、本能のおもむくままに二足歩行から四足歩行へと移行すると、力強く大地を踏みしめながら、やっと見つけたご馳走(俺)に向かって、物凄い勢いで砂煙を撒き散らしながら、闘牛の様に突進して来たのだった。


 ビーフの注意を引き付けきれなかったガルバンが、丸焼き広場にいるオルガたちに危険を知らせるために、怒号をあげる。


「オルガッすまんっビーフがそっちに向かったっ!」


 危険を知らせるガルバンの怒号を耳にして振り返ったオルガが、狂牛と化したビーフの突進を目の当たりにして、娘の手を引き声を上げて逃げようとする。


「逃げるぞナナリーッ!」


 しかしナナリーはオルガの腕をかいくぐると、俺の目の前で立ち止まり声を上げた。


「ブタさんは、私が守る!」


 ナナリーは凶牛と化したビーフと俺との間に体を割り込ませると、俺に向かって突進してくるビーフから俺を護るように両手を広げた。


 あーもー何がなんだかわからねぇが、俺を命がけで助けようとしてくれたケモ耳娘を見捨てるわけにはいかねぇだろうが! と思った俺は思いっきり空気を吸い込んだ。


 俺の吸い込んだ空気は俺の腹に送られて、俺の腹をこれでもかと、まるで小さな気球の様に膨らませると、はちきれんばかりに膨張した腹が、二人の女の子たちによって切れ込みの入ったロープを引きちぎった。


「ブヒヒヒヒーンッ!!」


 ブタの悲鳴のような気合の声を上げながら、丸焼き機の拘束を巨大に膨らんだ腹気球で、なんとか引きちぎって自由を手にした俺は、すんでのところで前に出て、ケモ耳娘に襲いかかるビーフの鼻先を両手の平で何とか受け止めていたのだった。

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