第五十一話 ブタっぽい俺の丸焼き広場とブタの丸焼き

 漂う上質な肉と脂の焼け焦げる香ばしい匂いを、ブタ鼻をひくつかせてブヒブヒと感じ取った俺は、本能的に目を覚ました。


「おおぅっこの肉と脂の焼け焦げる香ばしい香りはオーク肉の匂いだっ今夜はオーク肉のフルコースか!?」


 匂いにつられて目を覚ました俺は、辺りを漂う香ばしい匂いから、今夜の晩餐が自分の大好物のオーク肉の肉料理だと思って喜びの歓声を上げると、すぐさま貴賓室(牢屋)まで運ばれてきているオーク肉の料理に手を伸ばす……が。


「ん? 手が伸びねぇ? というか。身動きがとれねぇ!? 一体全体なにがどうなっていやがる!?」


 俺はいつの間にか自分の体が何かによって拘束されて、体の自由を奪われていたために、混乱した声を上げて周囲を見回したのだが、俺の声に答えたのは、俺の周囲にいた人々の人の声ではなく。背中を焼け焦がす高熱だった。


「あちいっあちいっての! 誰かっ水をっ水をかけてくれ!」


 俺が声を荒げて懇願するも、俺の周囲にいる人間は誰一人として俺の言葉には耳を傾けずに、ただうまそうなご馳走を目の前にした俺の様に、舌なめずりをして喜色満面の顔で俺を見つめ続けるだけだった。


「はっまさかとは思うがもしかして! 俺が丸焼きにされてんのか!?」


 そう、俺はこの時になってようやく自分が丸焼き機にセットされて、火で炙られながら回されていることを知ったのだった。


「ちょっとまておいっ俺はオークじゃねぇ! 俺はっお前らと同じ人間だ! だから早く火を消してくれ!」


 俺は自分の置かれている現状を知ると、すぐさま声を荒らげて人間たちに火を消してもらおうとするが、人間たちは俺の言葉が聞こえているのかいないのか。


「オークがしゃべった!」


「これが噂に聞いたしゃべるオークかっ」


「しゃべるなんて珍しい」


「だな。きっと肉も普通のオークよりうまいんじゃねぇか?」


 などと好き勝手なことを言うだけで、誰もが俺を助けようとはしてくれなかった。


 くそっこのままだと俺が丸焼きになっちまう! と思った俺は、なんとか丸焼き機から抜け出そうとするが、完全に手足を縛り上げられた後に棒に固定されて丸焼き機にかけられているので、俺がどう足掻いても丸焼き機から抜け出すことができなかった。


 そして俺が足掻いている間にも、丸焼きに薪が追加されて、丸焼き機の火の勢いが、増していった。


 火の勢いが増すにつれて、俺の体を焼く火の温度もどんどん上昇していき、俺の体から吹き出る脂汗もその勢いを増していった。


 こうなってしまうと、もはや俺には、滝のように汗を流しながら、ブ、ブヒッヒと弱々しくブタのような鳴き声を上げることしかできなかった。


 そうして俺が旨そうな匂いを漂わせながら、全身をこんがりと焼かれ、大量の汗を流しながら意識を朦朧とさせ始めていると、何やら視界の先に息急ききって一人の兵士が走り込んできて何かを叫び始める。


 すると兵士の声を聞いた広場にいた人々が悲鳴のような声をあげながら、俺には目もくれずに、我先に丸焼き広場から逃げ出していった。


 そして、人の逃げ出す流れに逆流するようにして、この場に不釣り合いな二人の小さな人影が、刃物のような光る何かを手にしながら小走りで俺に近付いて来ていた。


 朦朧とする意識の中で、俺は、ああ、あの小さな人影にこれから止めを刺されて食われるんだな。と思い意識を手放したのだった。

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