第四十一話 ブタっぽい俺のヒドラ狩り② 逃げ惑う兵士たち

 覆いかぶさってくる炎を目にした俺は、とっさにリュックに差し込んでいる開いた傘(パラソル)でガードするが、覆いかぶさって来た炎を何とかガードするも、ガードした瞬間。炎を受けた傘は熱に弱かったのか、傘の皮膜が燃え尽きて、傘の骨組みのみを残して焼け落ちてしまう。


「まあビニールだからしょうがないか」


 呟いて、俺は傘をリュックの中に放り込むと、いきなり俺に向かって炎を吐いてきた奴にサングラス越しの視線を向けて鑑定した。


 俺や兵士たちに向かって口から炎を吐き出しながら森から現れたのは、俺が今まで戦って来たムシキングや大蝙蝠やオークキングが可愛く見えるほどの食べがいのありそうな巨大な体をもった六つ首頭のヒドラだった。


 ヒドラ


 ヒステリア森林の支配者


 六つ首に分かれた首からは、炎や猛毒を吐き出すことができる。


 全身を覆う頑丈な鱗は、個体や食べ物によって色が変わる。


 主食は、オークや森鹿。特に味のいい肉を好んで喰らう。


 性格は、縄張りに敵対者が侵入しない限りマイペースでのんびりとしているが、食欲に支配されているときは獰猛になる。


 体の大きさは、食べた食物や長年生きてきた年月により増減する。


 同じく首の数も食べ物や年月によって増える。


 生命力がとても強く、また寿命はないと言われている。


 味は、鶏肉に似た味をしていて非常に美味であるが、体内の血液が猛毒を有しているために、普通の人はきちんとした処理をしないと、ニ、三日で死に至る。


 おおうっまさかの猛毒属性かよ!? 地上のフグ肉ってとこか? けど味が鶏肉に似てるってことは、元いた世界みたく蛇は鳥の味がするのか? と思っていると、全身を桃色の頑丈そうな鱗に覆われている体長五メートル体重八百キロ。野太い首や尻尾までいれたら全長八メートルを優に超す体格をした巨大なヒドラは、六つ首をもたげさせながら俺たちの前に進み出ると共に、再び炎を吐き出しながら、俺や兵士たちを威嚇するように咆哮を上げた。


「ギャォォオオオオオッッ!!!」


「ヒドラだと冗談じゃねえ!」


 突如として森から炎を吐き出しながら現れた巨大なヒドラの姿を目にした一人の兵士が声を上げると武器を投げ捨てて逃走する。


 と、それに習って予想外のヒドラの登場で浮き足立っていた他の兵士たちも、蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出し始めた。


 それを見たガルバンが、自らも浮き足立ちそうになりながらも、声を振り絞り震える声を張り上げる。


「皆怯むな!」


「無理です隊長っ皆逃げだしております!」


 何とかガルバンの声に反応を返した兵士も、腰が引けており、今にも逃げ出しそうになっているのを必死にこらえているといった感じだ。


 そこへ、ヒドラが再び炎を吐き出してくると、さすがにその場に踏みとどまろうとしていた兵士も、もう我慢できなくなったのか一目散に森の中へと逃げだしていった。 


 そうして、予想外のヒドラの登場で、ガルバン率いるオーク討伐隊は、蜘蛛の子を散らすようにして、七割ほどの兵士たちがチリジリになり、森の中に向かって逃げ出したのだった。


「ええいここまで来てっあと少しであのオークを仕留められたものをっ仕方ない皆撤退せよっ!」


 もう少しでオーク(ブタ(俺)を仕留められそうだった隊長のガルバンは、地団太を踏みながら苦虫を噛み潰したような表情をすると、兵士たちに撤退命令を下した。


 ヒドラの恐怖に耐え忍び何とかその場に踏みとどまっていた一握りの兵士たちは、ガルバンの撤退命令を受けて、一目散に森の中へと逃げ込んでいったのだった。


 ヒドラの恐怖に耐えきれず、森の中へと逃げ去って行った人間たちをしり目に、この場に現れたヒドラは、ゆっくりと大きな巨体を揺らしながら、目当ての物へと近づいていく。


 それは丸焼き機にセットされたオークキングの丸焼きだった。


「まさかあいつの狙いはこれか!?」


 俺が気付いた時にはすでに遅く。丸焼き機の火などモノともせずにオークキングのうんまいお肉にヒドラの六つ首が、次々と大口開けてかぶりついていった。


 森に響き渡るのは、ヒドラが丸焼き機を壊しながら、オークキングの四肢を食いちぎりうまそうに呑み込む咀嚼音だった。


 せっかくとった獲物をうまそうに食うヒドラの姿を見て、獲物を横取りされた俺の怒りは頂点に達した。


 逃げろという人間たちの声が響く中。俺は一人ヒドラに向かって、脂肪腹をブルンブルンと揺さぶりながら、手にしていた木の棒を振りかぶって、走り出していた。

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