第四十話 ブタっぽい俺のヒドラ狩り① ブタと兵士たち 

 激闘の末に”仁王„張り手で何とかオークキングを倒した俺は、いい加減オーク肉が食べたい欲求を抑えきれなくなり、オークの巣穴がすぐ近くにあるというのに、オーク肉を焼くための丸焼き機三号の製作を開始した。


 ちなみにこの丸焼き機三号の材料は、オーク肉が手に入ったらすぐさま組み立てて焼けるようにと、オークや灰色狼を森の中で探している間に、あらかじめ確保しておいた素材をリュックに詰め込んでおいたものだ。


 すでに丸焼き機の組み立ても三機目となっていた俺は、これも暇な時分に作っておいた木製シャベルを使って、慣れた手つきで先端が枝分かれしている頑丈そうな太い二本の木の枝を程よい距離を開けて地面に立たせるための穴を掘ると、その中に先端が枝分かれしている木の枝を差し込んでから、土をかぶせ強度を増すために岩を使って補強する。


 その後オークを串刺しにするための先端が鋭く尖った太い枝をリュックから取り出すと、それを使ってオークキングを串刺しにした。


 オークキングを串刺しにした俺は、もう辛抱たまらないといった感じで、オークキングを丸焼き機三号にセットする。


「うしっあとは焼くだけだ!」


 オークキング肉を丸焼き機にセットした俺は、リュックの中からあらかじめ拾っておいた薪を取り出すと、オークキングの肉がよく焼けるように丸焼き機に薪をセットしてから、ポケットから百円ライターを取り出して火をつけた瞬間に、俺の頭上に、弓矢の雨が降り注いだ。


「ブヒッ!?」


 俺は驚きの豚声を上げると共に、とっさにリュックの脇に差しているパラソルを開いて頭上から降り注ぐ矢の雨をしのいだ。


「なんだあれは!? ええい怯むな! あのオークがどんな武器を持っているのかはわからんがっ度重なる戦闘で奴が疲弊し、今が絶好の好機にかわりない! 各員突撃せよ!!」


 森の木の陰に隠れていたと思わしき、よく手入れされた銀色の甲冑に身を包んだ兵士たちの隊長であるガルバンが、声を上げる。


「おおっ!!」


 その声に反応してか、次々と森の中に隠れていた薄汚れた鎧や兜を身に着けた兵士たちが、槍や剣を身構えて俺に向かって突撃してくる。


 自分に向かって来る人間たちの姿を目にした俺は、手にしていた傘(パラソル)を、元の場所にしまいながらも、この世界にも人間がいたことを知る。


 人間か、この異世界にも、人間がいたんだな。そういえばケモミミ娘もいたんだし、この世界に人間がいてもおかしくないか。だとしたら、クッキーやケーキなんかもあるかもしれない。と思った俺は、おいしい本物のお菓子を食べられるかもしれない喜びと期待を胸に抱いて、思わず声を大にして叫んでいた。


「おおっスイーツッ!」


 俺が喜びの声を出している間にも、人間たちの動きは止まらない。その数ざっと二十前後。


「ガルバン隊長っオークが何事か口にしておりますが、いかがいたしましょう!」


「オークが人の言葉をしゃべれるわけがなかろう! オークの声などに耳を傾ける暇があったらさっさとあのオークを仕留めんか!」


「はっ!」


 隊長の叱咤を受けた兵士たちが、俺に向けて次々と銅製と思われる剣や槍で攻撃してくる。


「ちょっまっ俺はにんげ……」


 相手が言葉の通じる人間ということもあり、俺は話し合いをしようと声をかけるが、人間たちは俺のことを完全にオークだと思い込んでいるのか。誰一人として俺の話に耳を傾けない。


 そればかりか、次々に俺を仕留めようと攻撃してくるために、仕方なしに俺は、丸焼き機の上で少しづつ焼け始めていい匂いを漂わせ始めたオークキングの肉の匂いを嗅ぎ涎を垂らしながらも、腰に差している鉈を手にして、何とか応戦する。


「ちょっ人の話を聞けっての! 俺はにんげ……」


「ええいっみな怪しげな道具を使うオークの戯言に耳を傾けるな! とにかくヒステリア森林にいるオークは領主様のご命令通りに根絶やしにするのだ!」


「はっ」


 ああもうっこりゃいくら言っても無駄か。なら、本当ならお菓子をもらうためにも、人間たちとの関係を悪化させたくなかったんだが仕方ないな。殺さなきゃいいだろ? 


 そう結論付けた俺は、鉈を腰に差し直した後に、背中のリュックに手を回して串刺し用の三メートル前後もある太い木の枝を取り出して両手でぶん回すと剣や槍で向かって来る兵士たちをなぎ倒した。


「あのオークッどこからか取り出した木の棒を武器にし、振り回して反撃してきているぞっ皆気をつけろ!」


「はっ」


 隊長の命令に従って、何人もの兵士たちが俺の振り回す木の棒に注意を払いながらも、剣や槍で次々に俺に向かって攻撃を仕掛けてくるが、オークよりも圧倒的に力の弱い人間が、一人一人バラバラで攻撃してきただけでは、常日頃からオーク肉確保のためにオークを狩りまくっている俺の敵にすらならず、個々で攻撃してくる兵士たちは俺の振り回す木の棒に次々と仕留められていった。


「ええいっ何をやっているかっ疲弊しているとはいっても、相手は力の強いオークだ! 訓練でやったように束でかからぬかっ束で!」


「はっ」


 隊長に罵声を浴びせられた兵士たちは返事を返すと、今度は同じ獲物を持った三、四人ほどで徒党を組んで、一斉に俺に向かって槍や剣を振るって来た。


 だが、ぬるい。先ほども言ったが、俺は常日頃から人間とは比べ物にならないほどの力を持ったオークたちを、時に獲物を使って。時に己の身一つで狩っているのだ。


 そんな俺に今更オークよりも圧倒的に非力な人間が、数人束になったところで敵うはずもなかった。


 そのため束になって俺に向かって来た兵士たちの振るうあまり切れ味のよろしくない剣や槍は、俺の振るう木の棒と接触すると、束のまま薙ぎ払われていった。


「な!? なんだこのオークは! 通常のオークとは比べものにならんぞ!」


 兵士たちが徒党を組んで攻撃しても、まとめて木の棒で薙ぎ払われて吹き飛ばされるのを目にしていた隊長であるガルバンが驚きの声を上げるが、さすが一部隊を率いている隊長だけあってすぐさま立ち直ると、目の前のオーク(ブタ(俺)を仕留めるための次なる指示を飛ばした。


「だが相手は一匹。囲んでしまえばどうということもない。皆カゴメの陣だ! 円陣を組んであのオークを取り囲み、一斉攻撃で仕留めるぞ!」


「はっ」


 隊長であるガルバンの指示を耳にした兵士たちは、遠巻きに集まり出すと、俺を囲みながらリーチのある槍持ちたちを先頭に円陣を狭めて来た。


 オークより弱っちいとはいえ、さすがに武装したこれだけの数に囲まれたらまずいと思った俺は、包囲網から脱出しようと、威嚇の意味合いを込めて、木の棒をぶん回した。


「皆のもの怯むなっ棒を振り回してきているのは奴が焦ってきている証拠だっゆっくりと円陣を狭めて確実に仕留めよ!」


 くそっ一人一人はオークよりはるかに弱いってのに、きちんとした指揮をとる奴がいて、統制が取れると人間ってこんなにも厄介になるのかよ!」


 俺は故郷の地で何千種もの動植物たちが人間が反映するための策略によって消えていった理由を、自分が人間たちに狩られる側になって初めて、まざまざと思い知らされたのだった。


 そして、ゆっくりとだがジリジリと、確実に狭まる包囲網と、丸焼き機で丁度食べごろの香ばしい匂いを放ち始めたオークキング肉の匂いが俺の鼻をよぎった瞬間、俺は決意する。


 このまま長引くと、せっかくのオークキング肉が黒焦げになっちまう! そしたらせっかくのお肉が焦げて苦くなっちまう! それだけは、断じてそれだけはするわけにはいかねぇ! こうなったら一か八か、ぶちかましでもかまして人間たちの包囲網を力づくで突破して、焦げ付く前にオークキング肉を確保するしかねぇ! と決意した俺が、手に持つ木の棒に力を込め、ぶちかましの体勢をとっていると、いきなり木々の生い茂る森から巨大な炎が、俺と俺を取り囲む兵士たちを飲み込むように、覆いかぶさって来たのだった。

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