第三十九話 ブタっぽい俺の武装オーク狩り③ ブタとオークキング

 洞窟の外へ突き飛ばされた俺は、全身の体脂肪のおかげで大した傷を負うことはなかったが、突き飛ばされた衝撃で尻餅をつき、その拍子に首から下げていたサングラスを装着していた。


 とりあえずサングラスを外している余裕のなかった俺は、その場でヨロヨロと起き上がり洞窟から出て来るであろう赤いオークを待ちかまえるために、ハルバードを構えなおした。


 ほどなくして俺が体勢を整えるのを待っていたかのように赤いオークが洞窟の中からゆっくりと姿を現して、余裕の表情で俺を見下だしていた。


 そして洞窟から出てきた赤いオークの姿をサングラス越しに見た俺の視界に、赤いオークの鑑定結果が浮かび上がった。


 オークキング


 ヒステリア森林に住まうオークたちの王。


 自分は普段洞窟の奥に引きこもっていて、子作り以外はなにもせず、たくさんの部下を従わせて飯や苗床になる雌を運ばせている。


 普段オークたちを顎で扱き使っているために、体を動かしていない印象が強いが、オークキングの体は、オークたちの王というだけあって、程よい筋肉が乗っていて、非常に美味。


 よく王族たちの祝い事の席では、丸焼きやトンテキにされて、パーティーのメインディッシュとして扱われる。


 性格は獰猛で攻撃的。雌と見れば襲い掛かり、又を開かせて子作りに励む。性欲の権化。


 つまり俗にいうニートで引きこもりって奴だな。しかもニートで引きこもりなうえに、王族たちがパーティーで食べる極上の豚肉であるにもかかわらず、異世界転生や転移者の夢である苗床というハーレムまで形成しているオークキングに、俺がわずかばかりの羨望の眼差しを向けていると、洞窟から俺を追い払い自信満々な姿を現したオークキングが、バトルアックスを振りかぶって、大声を上げながら俺に向かって突撃してきた。


「ブモォオオオオオッ!」


 俺は構えていたハルバードでオークキングの一撃を受け止めるが、オークキングの力が強すぎて、攻撃を受け止めたにもかかわらず、ハルバードを弾き飛ばされてしまう。


 そしてハルバードという獲物を失った俺に、間髪入れずバトルアックスを振りかぶったオークキングが肉薄し、左から俺の頭を狙って、バトルアックスを振り回してくる。


 そのため俺は、とっさにお尻の下に引いている斧を右手にとって、バトルアックスを受け止めたのだが、オークキングのバトルアックスの一撃は、片手で受け止めるには少々厳しかったらしく。俺の右腕を弾き上げ、その衝撃で俺の顔をのけぞらせる。


 しかも木の柄で出来た斧は、オークキングの振るうバトルアックスの衝撃に耐えきれずに、木でできた柄の部分がバキッと折れてしまって、柄より上。つまり斧の刃の部分が吹き飛んで行ってしまう。


 俺が顔をのけぞらせ、武器を失ったのを知ったオークキングが、にやり、と、勝ちを確信した嫌な笑みを浮かべながら、俺に止めを刺そうとバトルアックスを大上段に振り上げると共に、勢いよく振り下ろそうとしてきた。


 嫌な笑みを浮かべながら、余裕しゃくしゃくの態度で、俺に止めを刺しに来ているオークキングの姿を目にした俺は、怒りの声を上げた。


「ちょっとばっかいい匂いさせてる豚肉の分際でぇっ人を見下してんじゃねぇ! この豚がぁっ!」 


 俺は右手が弾き上げられていたために、渾身の左張り手をオークキングのムカつく顔面、否。俺より頭一つか二つ分デカいオークキングの喉元に向かってぶち当てる! 


「ブヒッ!?」


 そう、喉輪、だ。


 俺は相撲の技である喉輪を、とっさにオークキングの喉に向けて繰り出したのだった。


「ブ、ブ、ブ、ブ、ブヒィイイインッッ!!!」


 俺に喉輪をかまされたオークキングは、ここに来て初めて弱ったような悲鳴を上げた。


「ど~だ力が入らねぇだろう? それが喉輪だ!」


 俺はオークキングの喉を掴んでいる喉輪に、喉をつぶさん勢いでさらに力を込める。


 だが、さすがはオークたちの頂点に君臨するオークキングというべきか、表情は苦しげながらも、往生際の悪い奴め。と言った感じに俺を見下しながら、振り上げていたバトルアックスを、俺に止めを刺すために振り下ろそうとしてくる。


 が、俺がそうはさせまいと、バトルアックスを振り下ろそうとしている腕の付け根を、右腕で押し上げた。


 左手でオークキングの喉を。右手で腕の付け根を抑え込みがっぷり四つの体勢に持ち込んだ俺は、ここが最後の勝負どころだと確信し、全身全霊の力を込めた相撲のぶちかましの要領で、思いっきりオークキングの体を頑丈そうなオークの巣穴の壁面にぶち当てたのだった。


「ブヒィイイインッッ!!!」


 俺に喉輪をかけられながら、勢いよく俺と壁との間に挟まれたオークキングは、口から泡を吹きながら弱々しい悲鳴を上げて、バトルアックスを取り落とした。


 オークキングが口から泡を吐き瀕死の状態だと確信した俺は、オークキングの喉から手を放してまるで仁王像のように身構える。


「これで終わりだ豚野郎! 必殺。”仁王”、張り手! 憤怒らばぁっ!」


 仁王のように顔を怒りの色に染めた俺は、俺が喉から手を放したために腰砕けとなって、俺の射程範囲に入っているオークキングの顔面に向かって、全体重を乗せた仁王張り手をぶちかまして止めを刺したのだった。

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