第三十八話 ブタっぽい俺の武装オーク狩り② ブタとオークの巣穴

 いた!


 もしかしたら、ここのオークもいなくなってしまったのではないかと心配していたが、俺の杞憂だったようだ。


 俺の見つけた洞窟にいる武装オークたちは、予想通りどこかの軍隊のように完全武装していた。


 少し前の俺だったら、完全武装したオークたちを見れば腰が引けて、すぐさまこの場を逃げ出していたはずだ。


 だが今の俺は、今の今までいきなりほっぽりだされた異世界で自分の力でオークや灰色狼や蝙蝠、ムシキングと夜の王である大蝙蝠たちを狩ってきたために、それなりに自信をつけていた。


 そのため今の俺は完全武装オークを見ても、決して逃げ腰にならず、冷静にこいつらをどうやって倒して肉にするかばかり考えていた。


 といっても、やはりオークの怪力や持っている武器や防具を決して侮ることができないと思っている俺は、空きっ腹を我慢して、オークの巣穴を少し離れたところから観察していた……


 のだが。


 俺の腹が恋い焦がれていたオークの姿を見た俺は、自分の考えとは裏腹に、一分も立たずに武装オークに向かって舌なめずりをしながら、ハルバードを大上段に構えて飛び出していた。


「オーク肉ぅぅぅうううううう!!!」


 ゴスッと、まず一匹真後ろから斧を持った武装オークの脳天にハルバードの斧の部分を突き刺して鉄のカブトごと真っ二つにした。


「ブヒッ!?」


 いきなりわけのわからぬことを叫びながら突撃して、仲間のオークを一撃のもとに粉砕した俺を視界に収めたオークは、手にしている鉄製の槍を構えると、俺に向かって突き出してくる。


 だが今の俺の勢いはその程度では止まらない。


 数々のモンスターたちとの死闘を乗り越えて、戦闘経験を積んでいた俺は、オークの繰り出してきた槍をハルバードを力強く握り締めていたために、かいていた手汗でぬるりとかわした。


 さすがの武装オークも、まさか手汗で自分の槍がいなされるとは思っていなかったのか、あっけにとられた顔をする。


 その一瞬のスキを今の俺が見逃すはずがなかった。


「丸焼きオーク肉ぅぅうううっっ!!!」


 俺は出会い頭に背後から武装オークの頭部を鉄兜ごと唐竹わりにして振り下ろしていたハルバードを回転させると、そのままオークの脳天に振り下ろして息の根を止めた。


 こうして見張りをしていた鉄槍を持った完全武装オークを倒した俺は、オーク肉をマジックリュックに収納すると、オークの手にしていた鉄槍を拾いつつ、意気揚々とオークの巣穴へと侵入していった。


 小さな崖の壁面にあけられた洞窟をもとにしたオークの巣穴の中は、じめじめとしていて、所々に暗いところで淡い光を放つ、光苔が群生していて洞窟の中を淡く照らし出していたために、蝙蝠の巣穴の時のように松明を使う必要はなさそうだった。


 俺はオークの巣穴に入り込むなり、ブヒブヒとまるでブタのように鼻をひくつかせる。


 もちろん俺が嗅いでいるのは、オーク肉の脂ぎった匂いだ。


 俺は一番上質な油のにおいをかぎ取ると、もういてもたってもたまらずに、洞窟内をオークの匂いを頼りに転がり始めた。


 まぁ転がるといっても走ってる姿が転がっているように見えるだけだ。


 そして上質なオーク肉を求めて洞窟内を探索する俺を排除しようと、巣穴の中に居たオークたちがまるで湯水のごとく沸き上がり、俺を目指して押し寄せて来た。


 俺は今の今まで恋い焦がれていたオーク肉が、向こうから団体さんで押し寄せてくれるこの状況に歓喜して、ブタの鳴き声を上げた。


「ブヒヒヒヒイイインンッッ!!!」


 俺の肉狩りが始まった。


 まず、俺の進む洞窟の正面からは、薄手の皮の鎧に身を包み鉄剣をもった体格のいいオークが三体現れた。


 俺は歩く速度を緩めずに、巨大なブタのようにのっしのっしと、歩を進める。


 もちろん俺が近づけば当然オークも近づいて剣を振りかざし、豚声を上げて威嚇しながら剣を振り下ろし突撃してくるのだが、俺は威嚇音など当然無視して、進路上にいる武装オークに向かって、門番オークから回収してきた鉄槍を思いっきり投げつけた。


 俺が投げつけた鉄槍は、川鎧を身に着けたオークを皮の鎧ごと貫くと共に、その後方で出番待ちをしていたオークをも容易く串刺しにした。


 それから俺は、残りのオークが振り下ろしてきた剣をハルバードで受け止めると、オークの鎧に肉薄して、気合一閃。


「ふんぬらばぁ!」


 オークの鎧の上から全体重を乗せた張り手をぶちかました。


 俺に張り手をされたオークの鎧は、ベコッとへこみ。オーク自体も後方に吹っ飛んで、今まさに洞窟の枝分かれしている道から出てきて、戦闘に参加しようとしていた四、五体のオークに激突して彼らの足を止めた。


 それをチャンスととらえた俺は、力を振り絞りオークたちに向かって、全力のぶちかましをお見舞いする。


「どっこいしょおっ!」


 当然俺の全力のぶちかましを受けたオークたちは、俺のぶちかましに耐えられずに、互いに体を重なり合わせながら壁に押し付けられた。


 そして俺と硬い土壁の間に挟まれたオークたちは、ぶひっと空気の吐き出すような音をさせた後にこと切れた。


 そうやって、俺が力押しでオークを倒し、オーク肉をマジックリュックで回収しつつ、オークの巣穴の奥へ奥へと進んでいると、今までのオークとは明らかに毛色と匂いの違う一匹の赤い肌をしたゴリマッチョ的なオークが、柄の短いバトルアックスと呼ばれる巨大な斧を持ち、洞窟の天井にくっつきそうなほどの巨大な体をかがませながら姿を現した。


 もちろん相手がどんなに強かろうと、俺のやることは変わらない。すなわち、一つでも多くのオークを倒して、たくさんのオーク肉を手に入れることだ。


 俺はあからさまに他とは毛色も戦闘経験も違うと思われる赤く巨大な今までで一番のいい匂いをさせるオークに向かって、ハルバードを振りかぶって突撃した。


 赤いオークも俺と同じように走り出すとバトルアックスを振り上げる。


 そしてお互いの射程距離に入った瞬間、双方の獲物が全力で振るわれる。


「ブヒヒヒヒンッッ!!」


「ブモオオオオッッ!!」


 ガッキイイィィィンッ!!!


 ブワッと、気合いの掛け声と共に、互いの獲物がぶつかり合う衝撃で、洞窟内の砂ぼこりが舞い上がった。


 数秒後洞窟内の砂ぼこりが収まりをみせると、そこにはハルバードとバトルアックスをがっちりと組み合わせて、力比べのようなつばぜり合いをしているブタと赤い肌をしたオークの姿があった。


「ふぬぬぬぬっ」


「ブモモモモッ」


「この野郎っ豚肉の分際で中々やるじゃねぇか! けどなぁ人間様が食料である豚に負けるわけにはいかねぇんだよぉ! ふんぬらばぁ!!」


 俺は人間(一応)としての意地にかけて、食料である豚肉に負けるわけにはいかないと気合の声を上げると、赤いオークに押し勝とうと渾身の力を込めて、赤いオークの体をズズッと後退させる。


 だが、俺に体を後退させられた赤いオークも俺に負けじと、渾身の力を込めて押し返してきた。


「ブモォォオオオッッ!!!」


 赤いオークの予想以上に強い力に押し込まれた俺は、地に足をつけたままズズズズズと押し込まれてしまう。


 さすがにこのままではまずいと思った俺は、「ふぬぬぬぬっ」と、再度気合の声を上げて押し返そうとするが、赤オークの方が獲物も力も俺より上なのか、押し返すどころか、逆に洞窟の出口に向かって押し返されてしまう。


 そしてとうとう俺は、「ブヒヒヒヒーンッ」と、弱ったブタのような情けない悲鳴を上げて、赤オークに洞窟の外に押し出されてしまったのだった。

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