第三十七話 ブタっぽい俺の武装オーク狩り① 森のオークが枯渇した
久々(一日ぶり)に食ったオーク肉がやたらうまかったので、帰ってから毎日オーク狩りを断行していた結果。
三日後には、いくら探してもオークが見つからなくなったために、俺は心底飢えていた。
「オークッオーク! オーーーーーク肉ううううううっっ!!!」
俺は声を上げながら森の中を徘徊しても、いっこうにオークが見つからなかったために、仕方なく。本当に仕方なく、背に腹は代えられぬと思いながら、しばらくの間灰色狼を狩って灰色狼のまずいスジ肉にカレーをつけて食べていたのだが、三日も過ぎるとオークはおろか、灰色狼すらみかけなくなってしまった。
それからの俺は、自分のすきっ腹を満たすために片っ端から木に穴を空け、木の樹液をすすり始めた。
ジュースの木ほどではないが、そこそこ飲めるので、俺のお腹は大福餅のように、たぷんたぷんになっていた。
水っパラならぬジュースっぱらだ。
そうやってなんとか腹を満たして飢えをしのいでいたのが、オークが見つからなくなってから二日、三日と経っていくと、さすがにジュースだけでは、俺のすきっ腹は限界だった。
「腹減った……。オーク肉……。ブタ肉がぁくいてえぇよぉおおっっ!!!」
固形物が食えず、空きっ腹の限界に達していた俺は、なりふり構わずに大声でヒステリックに叫んでいた。
まぁ実際のところ。森の奥深く。蝙蝠洞窟や湖までいけば、蝙蝠の残党か、虫やモンスターフィッシュがいるのだが、この時の俺は腹が減りすぎていて、すでにオーク以外の事を考えられなくなっていた。
それから口の中に広がるジューシーなオーク肉の味を思い出しながら俺は、何とかオークを見つけられないものかと考え続けていると、ふとある閃きが俺の頭に訪れた。
「あっそうだ! 洞窟だっ武装オークの洞窟があるじゃないか!」
そう俺は考えに考えて、少し前に見つけたにも関わらず、危険が高そうなので今の今まで放置(忘れていた)武装オークたちの住み着いていると思われる洞窟の存在を思い出していた。
「でもあいつら人間の軍隊並みに武装してんだよな」
武装オークたちの住まう洞窟の入り口に立っていたオークたちの装備を思い出した俺は、少しの間逡巡したが、背に腹は代えられぬ。と、重い腰を上げることにした。
「よしっこのまま飢え死にするか戦うかなら俺は戦う方を選ぶ!」
俺は気合の声を上げながら、さすがに武装オークの本拠地と思われる洞窟に向かうには、上半身裸で行くわけにはいかないと思って前に手に入れたオークの兜や鎧に、武器などをしまっていたマジックリュックから引っ張り出して、準備を始めたのだった。
まず初めに、ケモミミ少女に一張羅のランニングをかけてやったために、未だに上半身裸でいる俺は、とりあえず、俺の腹を護る鎧を新調することにした。
まず俺はオークの使っていた鉄の鎧の上半分を、身に着けようと思って、鎧に頭を入れてみたんだが……鎧から頭を出す部分でまず引っかかり、腹を収める部分でもひかかってしまう。
「ちっせぇな。こんなちっこかったけ?」
俺が鎧から頭を通せずに、首なしライダー状態になりながらも、なんとか鎧に腹を入れよう奮闘したのだが、いくら頑張ってみても鎧からタプンタブンの下っ腹がはみ出してしまう。
そのため俺は、このままでは鎧の体裁を成していないと思って、意を決して「ふんすっ」と、気合の声を上げて、できる限り体の中の空気を輩出して、頭を縦長の醬油顔にして腹をへこませると、力任せに無理やり一気に下っ腹まで鎧を引き下ろした。
「おおっ入るじゃねぇか!」
俺は何とか、首と下っ腹が通った鎧を見下ろしながら、自分のパッツパッツンになっていて今にもはじけ飛びそうになっている鎧姿を見下ろしていた。
「うしっ上半身の鎧はこれでいい。あとは下半身だな」
上半身が鎧に通ったために、今度は下半身に鎧を身に着けようとした俺が、一瞬息をつくと、その瞬間。
ボンッと、体の中の息を吐き出して作っていた醤油顔や俺の下っ腹が元に戻り、内側からかかる脂肪が膨張する圧力によって、鎧のつなぎ目だったのか丁度脇腹辺りの部分から鎧を割り開いて弾き飛ばしていた。
「……う~ん。どうやら鎧の強度が低かったみたいだな」
俺は弾け飛んで草地に転がる鎧だったものに視線を向けながら呟いた。
「とはいえ、やっぱあの武装オークの巣穴に向かうのに、裸のままってのもなぁ」
鎧を壊してしまった俺は、少しの間悩み続けるが、地面を転がる壊れた鎧を見て閃いた。
「そうだっ鎧のサイズが小さければ鎧をばらして腹巻にすればいいんだ!」
そう俺は、鎧がはじけ飛んだとはいえ、鎧の壊れた部分が丁度脇腹辺りからだったので、鎧の邪魔な部分を鉈や斧や素手を使って取り除いて、俺専用の腹巻に加工することにしたのだった。
結果から言えば、俺が加工を始めた鉄の鎧は、この世界の鉄の加工技術の水準が、俺の元いた世界とは比べ物にならないほどに低かったらしく、鉄の鎧だというのに、鉈や斧や素手で思ったよりも簡単に加工することができた。
そして俺が作った腹巻鎧が、これだ。
俺の脂肪によって、丁度脇腹辺りから割れて弾け飛んだ鎧の使えそうな部分を残して、余計な部分を鉈と斧でそぎ落とし、丁度俺のお腹と背中の下半分を収めるぐらいの大きさに加工する。
もちろん鎧一枚に、俺の腹と背中を一緒に包み込むほどの大きさがなかったために、丁度脇腹辺りから弾け飛んだ鎧をお腹用と背中用の二枚に分けてだ。
そして、鎧を二枚に加工した後は、加工した鎧の端っこがギザギザになっていたりして危険だったので、俺の腹や背中に当たる部分を木の皮を幾重にも重ねた皮布を当てて補強する。
もちろんこの世界に接着剤などは、俺の知る限り存在していないので、昔何かで得た知識から、木の樹液が接着剤になると聞いていたので、それを使ってくっつけている。
そうして出来上がった腹巻の上部と左右に、ハルバードの柄で上部(お腹側と背中側に二か所づつ)四か所。左右三か所づつ、合計十か所に穴を開けると、鎧の左右に開けた穴から蔦を通して、お腹と背中の鎧を繋ぎ合わせると共に、鎧の上部に開けた穴からも蔦を通して鎧の前と後ろを蔦で結び自分の肩にかけて完成させた。
「うしっ腹巻の完成だっまぁ腹から上は守れないが、背中の方にはリュックもあるし、何とかなんだろ」
俺は出来上がった腹巻に満足したが、これから武装オークたちのいる巣穴に向かうため、念のため出来上がった前掛けの性能を知ろうと、サングラスをかけて、鑑定してみることにした。
ブタの腹巻
(よく肥え太った豚が、自分の腹に合う鎧を見つけられなかったために、壊れた防具を木の蔦で縛り上げて自力で作った腹巻。
木の蔦の部分を攻撃されれば、一瞬で壊れるが、そこ以外の部分の防御力はそこそこで、鉄の剣の一撃ぐらいならば耐えられる)
異世界を越えたブタの胃袋。
異世界を渡ったブタが、その世界の物を自力で採取し、消化したために進化した胃袋。
どんなものでも強靭な胃液で消化することができる。
しかも決して破れない。溶けない。曲がらない。一品もので、かなりの容量を詰め込むことができる。決してかえはきかない。
俺は自分の作った腹巻の性能に満足しつつも、少し視線がずれてしまったために、その下に出て来た項目にも視線を向けた。
ブタの胃袋? って、もしかして俺の胃袋のことか? にしても、まさか胃袋まで俺と一緒に異世界に来たせいで、チート能力を得ているとは思わなかったぜ。
そして俺は、俺の胃袋の説明にある強靭な胃液という項目を見て、あの時大蝙蝠の奴が俺の胃液を受けて苦し気に転げまわっていたことに納得したのだった。
それから自分鑑定に興味がわいた俺は、自分のお腹を鑑定してみることにした。
異世界を越えたブタの皮下脂肪。
異常なほどの弾力で、装備者を護り切り、胃袋で摂取したカロリーを大量に蓄えておくことができる。
この説明を見て俺はああなるほどなと思った。
つまりだ。俺の皮下脂肪が異世界を越えた時に得た備蓄能力のおかげで、俺が食べたオーク肉などが、強力な胃酸によって分解された後に、皮下脂肪が分解したカロリーを蓄えているために、俺は普通なら腹に入りきらないほどのオーク肉を、あんなにもたくさんおいしく食べられていたんだと理解した。
「なるほどな。いつの間にか俺も異世界チート能力を持ってたってわけか。まぁとりあえずそれは置いといて、まず俺がやるべきことは武装オークたちに立ち向かえる装備を整えることだ」
それから俺は、オークのかぶっていた兜は、小さかったので頭に乗せてから、箱庭からこっちに戻ってくるときに回収した武器を地面に並べた。
「とりあえず、包丁はどっかいっちまったし、今ある手持ちの武器は、ハルバードに剣。それと鉈に斧か」
俺は剣を左腰に、鉈を右腰に、そして斧をお尻の下のベルト越しに挟んで、ハルバードを背中のリュックに吊るす。
「うしっ準備は整った! 待ってろよっ武装オークどもっ!」
装備を整えた俺は、頼むからまだ居てくれよと心の中で願いながら、一抹の望みをかけて気合の声を上げると、武装オークたちのいるオークの洞窟へと向かったのだった。
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