カタハネ第2話 子供の自主性を信じない親は

第2話 おかあさんは理想だから………、

母は、『おかあさんは見本だから、私のようになり、おかあさんのように生きなさい。』と、氷臣に言う。

私の生き方は正しいから、と。

合わない、とは、既に気付いていた。

母の育児に、

教育に、

もっと言えば、性格にも、合わない。

私と母は、

数限りない言い合いを繰り返してきた。

四角四面に育てることを目指す母と、

伸び伸び自由に生きたい私とが、

ふたり共に暮らすには、十五畳ワンルームは無理がある。

狭くても、自分の場所、が、ほしい。

けれど、父は他界し、

母の収入だけで暮らす氷臣の日々に、

引っ越しなんて、

言葉だけで、もう、贅沢だ。

部屋の隅の勉強机の前に腰かけて、氷臣は思う。有沢くん家は、もっと風通しがいいんだろうな、と。

クラスメイトの有沢くんは、真面目だが、

歯に衣着せぬ言動で、

先生さえも、ぶったぎる。

彼は生徒会の書記だが、彼の視点で書かれた生徒会の議事録は面白い気がする。

そんな議事録なら、読んでみたい。

子供が、自由闊達に育つのは、家庭がそれを許すから、だ、と思う。

彼の家族は、

彼を伸びやかに信頼しているのだ。

既に息苦しいウチとは違うのだ、と、氷臣は

料理をする母、を見ないように、

もうぬるい麦茶、を一息に飲み干した。 



「今日、家庭訪問の話があった。」

「プリントは?」

「これ。

希望は、明後日の金曜日までに出せって。」

「迷惑なのよねー。家庭訪問。」

「そんなこと、言ったって。」

「うちの教育は、完璧なのに、

何をケチつけたいのかしら、ね。」

「……………。」

「家庭訪問までに、外して捨てなさい、よ。くだらない、歌手のポスター。」

勉強机を見下ろす格好で、

天井に張られたポスター。

澤村 梨恵は、きれいで、まっすぐで、

私の理想、だ。

「梨恵ぽんは、私の夢、だから

くだらなくなんかない。」

「夢だとかなんとか云ってる内は、お前も、そいつもくだらないに決まってるんだ。」

「訂正してよ!」

「要らない。」

「訂正しないなら、ハンストする。」

「とにかく、外して捨てなさい。」

「外さない。」

「じゃあ、おかあさんが、勝手に捨てとく、からね。」

「そんなことしたら、

弁護士に訴えるから!」

「子供のあんたが?笑わせるわね。」

「絶対、外さない。」

「捨てなさい。」

「嫌だ。」

「あんたがくだらないミーハーだと思われたら、嫌だから云ってるのよ。」

「おかあさんの価値観を押し付けないで。」

「大人は、

みんなおかあさんと同じ、に思うわよ。」

「担任を気にしすぎ。」

「あんたの評価に関わるのよ、」

「全然かまわない。」

「考えが無さすぎです。」

「外さないから。」

「捨てとく。」

私は、席を立って、

トイレに入り、鍵をかける。

自分の部屋のない私、は、

こうやって抗議を表し、立て籠る。 



しばらくは、静かになった。 



私は、勝った気、で居た。



ところが、

急に金物の音が間近でしだした。



何が、外、で起きているのか…………、




不安なまま、に、事態の推移を見守る、と。


やがて、ドアは斜めに傾いて外れてー



私は、仕方なく、施錠は外す。

部屋の白熱灯の灯りが、

容赦なく目に飛び込んできた。

母は、ドアを繋ぐ蝶番を上下、外し、

トイレから、

ドアを取り外してしまった、のだ。

唖然、とする私、に、

母は笑う。

「これで、

ひおちゃんが悪だくみ、しない。」


その、ずれた発想に、

私は、それ以上の抵抗を、一旦、止める。



机に戻ると、

グシャグシャに丸められたポスターが、

部屋のゴミ箱、にうち棄てられていた。


私は、言葉を失い、苦い涙が溢れるのを、

留めようとはしなかった。   









第2話・完 第3話につづく。









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カタハネ 文陸 叶乃華 @10no9a-2309a

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