第25話 真相の先

並木探偵事務所の3人は突如として舞い込んだ犯人の訃報を受けて警察署に向かう支度を始めた。

「和戸君は一旦帰りなさい、警察署で落ち合おう」

平賀所長が和戸に指示するように言った、用意もなく事務所で一泊した為着替えも無かったのだ。

「わかりました、すぐに戻ります」

和戸は所長と鹿屋に一礼した後に先に事務所を後にした。

「鹿屋、私達も行くぞ」

「もう準備できてる」

支度を済ませた鹿屋が自室から出てくる、二人は事務所の戸締りをし車で警察署に向かった。


警察署にたどり着くのは30分もかからなかった。

「来たか、こっちだ」

正面玄関のすぐ目の前の喫煙所に望月警部達が待ち構えていた。望月警部二人の姿しか見えないことが気がかりらしく周囲を見渡した。

「ありゃ?あの新入りはどうしたんだ平賀?まさかもう初日で根を上げちまったんじゃねぇだろな」

「彼なら昨日事務所に泊まっていったから着替えを取りに一旦家に帰しましたよ、ここに来るように言ってあります」

平賀は和戸が遅れくることを伝えた。

「そりゃ良かった、またの名探偵さんが酷使して逃げちゃったかと思ったよ」

望月警部が鹿屋に目をやり冗談を放つ、鹿屋は不快らしく眉を潜めた。どうやら気にしているようだ。

「ぐだぐだ世間話してる場合じゃないでしょうが、犯人に何があったんですか警部?」

鹿屋が話題の軌道修正させる。

「ここじゃなんだ、場所を変えよう」

そういうと部下に下がるよう指示し二人と共に警察署の一室に案内した。

「今、司法解剖に回してもらっている、医者の先生方曰くガンの全身転移による多臓器不全で一致している」

部屋に入り扉を閉めたのちにやっと警部が口を開いた。


「「ならなおのことおかしい」」


鹿屋と平賀の意見が一致する、平賀が手で鹿屋に説明を譲る仕草を取ると鹿屋が自身の気がかりな点を話しだした。



「するってぇとお前は大鳥以外にもう一人犯人、共犯者がいると?」

「犯行自体は自供の通りだ、だけどがいる」

そう言うと鹿屋が部屋にあったパイプ椅子を引き出しそれに座り推論を続けた。

廃墟団地殺人現場に5階から1階にかけて空いていた穴はどう見ても不自然で人為的に開けられたものだ、しかも複数箇所も用意するなんて大病を患った大鳥にはどう考えても不可能に近い」

「確かにそうだ、団地の持ち主からも事情聴取した方がいいかもしれないな」

「いや管理人に聞いても無駄だと思う、持ち主なら工事の看板でも立てれば物音がしても怪しまれずに済む、現に穴を開ける作業の音を聴かれないように団地の中でも奥ばった所にあの罠を配置してる」

鹿屋が携帯を取り出し地図アプリを二人に見せながら言った、犯行現場はどれも団地の中央を指し示していた。

「なら団地周辺の監視カメラを調べてみる価値があるな」

「わかったこちらで手配しよう」

そういうと望月警部は手続きをしに部屋を退室した。

「……鹿屋、今回の事件どう思う?」


平賀所長が鹿屋に問う。


「黒」


たった一言、一文字に込められた意味はただ一つだ。

「……まぁまだ確証はないけど」

「ないんかい」

「でも白黒はっきりさせれる物的証拠がある」

「あのピアノ線か」

被害者を例外なく殺害した木枠に張り巡らされたピアノ線に二人は目星をつけたようだ。

「あんな代物、町工場の人間や職人といえど個人で作成するの無理がある、被害者が羽織っていた衣服から所持していたまでまるで裁断されたようにバラされてるんだ、軍事用のブービートラップでもここまで凄い繊維はいまだ開発されてないさ、たとえ大鳥の実家が工場だったとしてもね」

「なるほど……」

望月警部が関心する、鹿屋は警部の頷きをよそに自論を続ける。

「それに調べた所によると工場事態両親が亡くなった後工具の一本まで売りに出されていた」

「いつの間に調べたんだ?そんなこと?」

「とっくの前に、犯人に目星をつけた時には」

所長と警部は驚きを通り越してあきれるほどの鹿屋の入念さに感服した。

「じゃあこの連続殺人の裏には軍需産業ものの代物を手に入るツテがある人間……黒幕がいる」

「そしてそのピアノ線がかだ……そんでもって」

鹿屋が腰をあげ携帯に視線を移す。


「あのが関わってるかもしれない」

「もしそうなら彼にも連絡を……」

会話を遮るように鹿屋は携帯でどこかに電話をし始めた。

「どこに電話してるんだ?もしかしてお兄さんにか?」

「んなわけないでしょ、の受付だよ」

「そういうのは上司の俺の役目じゃないかな?」


二人が事件の裏側に潜むものに着実に近づいている最中、もう一人の探偵、和戸尊が警察署の目の前に辿り着いた所だった。


どこの部署に相談すればいいのだろうか、望月警部の名前を持ち出せばいいのだろうか?といった思考が彼の頭の中に密集していた。彼の人生において警察のお世話になったのはつい最近の誘拐事件の一つしか無く警察署に出向く機会とは縁遠い人生を送ってきたのだ。


正面玄関で立ち往生するのも気まずいため一先ず窓口にて望月警部の名前を出してみることにした。

正面玄関を入ると彼の気苦労は取り越し苦労に終わった、望月警部が彼の部下らしき刑事と共に事件の資料が入っているであろうダンボール箱を抱えて署内の奥に入っていく最中であった。

「望月警部!」

「ん?ああ、和戸君か!所長達は奥の部屋だ」

「持ちましょうか?」

「おお、かたじけないな」

望月警部が持っていた段ボール箱を和戸が受け取り警部の進む後を追った。

「これはあの事件の資料ですか?」

段ボールの中には茶封筒とUSBらしきものが複数個確認できた。

「ああ、現場周辺の監視カメラの映像と今回の犯人の検死結果だ」

犯人の訃報を聞いて和戸を含む3人の探偵は警察署ここに来たのだ。

「犯人の、大鳥氏の死因はやっぱり他殺だったんですか?」

「落ち着け和戸君、ひとまず上司達と合流してからだ」

そうこうするうちに所長達がいる部屋に辿り着いた。

「警部、それに和戸君も」

所長が和戸から段ボールを預かる。

「たった今着いた所です、遅くなってすみませんでした」

もう一人上司の鹿屋は携帯で誰かに電話をかけているようだが和戸にジェスチャーで返答を返した。

「頼まれていた現場近辺のなるべく長い期間の監視カメラの映像データ、それと大鳥一色の司法解剖の結果だ」

和戸が渡した方の段ボールのUSBがどうやら映像データで刑事が抱えていた方が司法解剖のカルテのようだ。

「結論から言うと前者は歯抜けがあってな」

「監視カメラの細工は犯人も被害者の妻子を拉致する際にジャミングしたって言ってたからな、犯行現場の準備中に使わないわけないわな、で?後者は?」

鹿屋が携帯を懐にしまい会話に参加する。

「後者は後者でやはり病死だったよ、薬に関しては今朝電話した通りだ」

「じゃあ犯人は何のためにあの注射器を使ったんでしょうか?」

和戸が当然の質問をする。

「それを今から調べにいくのさ、警部、犯人が使った凶器と逮捕時に使用した注射器、調

「よし、わかった」

鹿屋の進言に和戸は疑問を抱いた。何故なら警察には科捜研といった優秀な科学捜査のプロがいるのだ、そちらに頼んだ方が一介の探偵なんかよりも遥かに進んだ調査ができるはずだ。

「グレー・ゾーンの解析申請通ったのか?」

「うん、16:00にまでに来てくれってさ」

さらによくわからない専門用語が上司二人から飛び出し和戸は混乱した。

「それじゃあ和戸君の手続きも済ましてしまおう」

「手続き?」

和戸は現状が飲み込めず一人おどおどしていた。

「大丈夫、大丈夫、とって食われるわけじゃないから」

鹿屋が不安そうな部下の肩を叩き、腕時計を覗く。

「それじゃあ、そろそろ行くとしますか」

望月警部が証拠物品の手配を終えたという一報を聞いた3人は事務所の車で警察署を後にした。



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