第7章 異世界案件

第23話 決着、結末

取り押さえられた大鳥 一色は全てを自白した。

過去の事件の真相を知った彼は恋人を殺した人間、そして彼女の居場所を実行犯3名に伝えた元親友への復讐だったことを。

「二人の妻子は昨日の夜の内に睡眠薬を飲ませてうちに帰した」

「警部、安否の確認を」

鹿屋が望月警部に指示する。

「わかった、すぐに安否を確認させる」

警部は携帯を取り出し電話をかけた、 数分もしない内に警部の電話が鳴り出す。

「……そうか、ご苦労」

「陽道と松野氏の妻子の無事が確認された、薬の影響か寝入っているらしいが母子ともに命の別状はない」

犯人の証言通り妻子にまで手をかけなかったらしい。

「大鳥さん、何故身内には手をかけなかったんですか?」

うなだれる犯人に鹿屋が問いかける。

「当たり前だ、俺が復讐したかったのは4人だ彼女達には何も恨みは……」

「ふざけるな」

大鳥の言葉を遮る鹿屋、その青い瞳からはそこはかとなく侮蔑の視線が込められていた。

「あんたが殺したかった奴はその人達にとっては旦那であり父親だったんだ、どんなに悪党だったとしてもな……!!」

吐き出す言葉の語気が強くなる、鹿屋は大鳥に近づき胸倉に摑みかかる、周りの刑事たちが鹿屋を宥めようと取り押さえようとする

「遺された人間の気持ちも知らねぇ癖にそんな配慮する暇があるなら最初っから復讐なんて考えるな……!」

そう吐き捨てると鹿屋は刑事達に引き剥がされた。

「大鳥!」

現場に何者かの声が響く、その場にいる一同が声の方を向いた。

「……松野!!」

手錠をかけられているのにもかかわらず松野に摑みかかろうとする大鳥を刑事達が取り押さえる。

「すまなかった……!!」

地面に手を伏せ額を地面に当てる松野、勢いのあまりに地面に血が滲む。

「僕が奴らに携帯を取り上げられたばかりに瑞穂ちゃんが……」

溢れんばかりの涙を浮かべ友を見上げる松野、打ち付けた額からは血が流れ出ている。

「……なら何故あの事件の犯人達を警察に伝えなかった!!今更そんな言葉、信じられるか……!!」

大鳥の言うことは正しかった。

「したくてもできなかったのさ、松野さんは」

鹿屋が割って入る。

「彼は仲嶋からの脅しを受けていた、市議の息子と言う肩書きを利用して松野さんのお婆さんの病院の入院を妨害、そして住んでいる団地からの立ち退き、だから碌に連絡も無く大鳥さんの前から姿をくらました、仲嶋の権力の届かない隣県に引っ越さなければならなくなった」

「何故それを……!」

驚く松野、ただただ黙って耳を傾ける大鳥。

「望月警部、スケープゴートの件と松野さん一家に対する脅迫の件、仲嶋の親父さんも黒だ、叩いておいて損はない」

望月警部に耳打ちする鹿屋、望月警部は何も言わず一度だけ頷いた。

「……松野、どんな理由があってもやっぱりお前は許せない」

「……」

「でも、お前に手をかけなくて良かったとも思っている、この10年間でお前は十二分に苦しんだからな」

大鳥の言葉を聞く松野の拳に力が入る、図らずとも自身のせいで友の大切な人を死なす一旦を担ってしまった彼、故郷を離れ家族を持ったとしてもその悔恨の根は10年経とうと彼を苦しめ続けていたのだ。

「だから、もう俺らのことで気を病むな、前を見て生きてくれ」

「……!」

溢れる涙が止まらずに地面に突っ伏す松野、大鳥は鹿屋達3人の探偵の方をむいた。

「探偵さん達、俺を止めてくれてありがとう」

「大鳥さん?」

最初に大鳥の異変に感づいたのは和戸だった、声をかけて大鳥に近づく、息遣いがおかしい、顔色も一段と悪い。

「はぁ……か、鞄……を」

か細い声で自身が持っていた鞄を指差す。

「警部でも誰でもいい、救急車を!」

「もう掛けている!」

「大鳥!しっかりしろ!」

現場が騒然になる、松野は大鳥に近づき名前を呼ぶ。

和戸が刑事から鞄をもらい、大鳥の前に差し出した、大鳥が手錠をつけたまま鞄に手を突っ込み中身を探る、手には注射器エピペンが握られていた。

「大丈夫だ……すぐに楽になる」

そういうとそれを自身の腹部に突き刺した、しばらくの沈黙の後に大鳥は地面に横たわった。


サイレンの音が廃墟団地に近づく、119番通報を受けた救急車が到着したのだ。


「大鳥さん!最後に1つだけ聞きたいことが!」

「ダメだ、急患は意識を失っている、返答できる状態じゃあないんだ」

担架に担がれる大鳥に詰め寄る鹿屋、それを救急隊員が引き止める、大鳥は救急車で病院に担ぎ込まれた。

「……ひとまず解散にしましょうか、警部殿」

「そうだな」


平賀所長の提案で探偵達は解散となった、3人は車に乗り事務所に帰宅した。

「ふぁ…疲れたあ」

鹿屋が大きな欠伸をする、一晩中車中泊をしたおかげでよく寝付けなかった様子だ、残る二人も欠伸こそしなかったが一目散に横になりたかった。

「どうする、和戸くん?家に帰れるかい」

「だいじょうぶです」

平賀所長が和戸に聞く、和戸の方は大丈夫とは言うもの自転車を漕げるかも怪しい様子だ。

「このまま帰宅させたら車に轢かれかねんな……。もしよければ3階に空き部屋があるそこで休んでいきなさい」

「ありがとうございます」

初仕事の内容が内容だっただけに平賀所長は和戸が大丈夫か不安になった。

「部屋に案内しよう」

「だがその前に」

和戸を案内しようと3階に向かうドアに手をかけたようとした時に振り返る。

「鹿屋ぁ!客人用ソファで寝るなっ!寝るなら自室に行けって何度言えばわかるんだ!」

迫真の一喝に手を振って答える鹿屋の態度に大きなため息を吐く所長。

「だらしない先輩ですまんな和戸くん」

「だいじょうぶです」

3階は居住スペースとなっており名札がかかった部屋とそうでない部屋があった。

「トイレは奥にある、こっちの部屋を使ってくれ、布団は押入れの中にある」

空き部屋にはもちろん何もない、押入れが1つ、窓は奥の方に1つ、四畳半も無いぐらいだが和戸からすれば十二分にいい物件に見えた。

「何から何まで本当にありがとうございます」

和戸が所長に深々と頭を下げる。

「初仕事からあんな大事件だったんだ、存分に休んでくれ」

そう言うと所長は部屋を出た。

「おやすみなさい」

押入れから未使用のままの布団を敷き、布団に潜り込んだ。


和戸は昨日今日の体験を思い出していた、車中泊の疲れも取れてないにもかかわらず興奮冷めやらぬ初仕事であったこともあってか、それともまだ陽が傾き出したばかりであった為か横になった後もしばらく眠ることができなかった。

犯人の復讐劇、友との和解、自分達の奔走は決して無駄ではなかったのだ。


陽が完全に沈むと和戸は深い眠りについた。

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