第22話 犯行過程 ほつれ
『まずいことになったねぇ』
「どうすればいい?帰りはあの道を通らないといけないだぞ?」
廃墟団地の茂みの中で声を殺して彼と連絡を取る。団地前のコンビニで何やらあったらしくパトカーが数台止まっている、その周りには深夜にもかかわらず結構な人だかりができていた。
『ひとまずターゲットを回収は後日にしよう、人混みをかき分けて死体を運ぶのは無理がある、スポーツバッグに罠だけ入れて戻ってきたまえ」
「……わかった」
団地に戻り二階配置した罠を回収し人混みをかき分けて別荘に撤収した。
「とんだ災難だったね、職質されなかっだけでも幸運だ」
「何日か日を開けた方がいいか?」
「そうすべきだ、コンビニ強盗なんて起きたのなら周辺の警戒も厳しいものになる」
当然だ、もう自分に残された時間は僅かだというのに。
「苦しそうだね、大丈夫かい?」
痛みで意識が遠のく。
「……まだだ、まだ終われない」
自分の身を案じたのか男は懐から見たことないものを取り出した。
「エピペンといってね、本来糖尿病患者やアレルギー持ちの人が使う特殊な注射器だ、中身は鎮痛剤だ、腕を出して」
男に言われるがままに腕を差し出す、エピペンを腕に押し付ける、何かが刺さる感覚、痛みが走る。
「……ありがとう、楽になった」
注射をしてしばらくすると鈍痛は嘘のように消えていた。
「もしもの時に持っておきなさい」
そういうともう1本を私に手渡した。
事態も容態も悪化した、警察に長丘の遺体を発見されたという報告が彼からもたらされたのは松野の妻子の拉致に成功した時だった。
『どうする?』
「どうもこうもない、続行する」
『……彼女は還ってこないんだよ』
今さら何を言うかこれは彼女への手向けだ、奴らの死が彼女の救いになる。
「わかりきったことを、これは彼女への手向けだ」
「素晴らしい人だ君は」
術がいる、もう捕まろうが関係はない、どうせ死ぬのなら裏切り者に鉄槌を。
「必ず仕留めたい」
「理屈も融通も社会も秩序も要らないというのか?」
「わかりきったことを言うな!」
「よかろう、君に諺を進呈しよう」
「当たって砕けろだ」
もはや後には引けない、諺と呼べるかわからないその言葉の通りだった、私は席を立ち人生最期の殺人へと赴いた。
「いい表情じゃないか、行って来なさい」
まるで息子を見送る親のようにそう言った。
松野を始末し、死体を回収しに行く、日を開けたのは時間をずらした方がいいという彼からのアドバイスだった。
そして警察に取り押さえられた現在、あることにやっと気づく。
2週間もこの犯行に関わって来た彼の名前を聞きそびれていることに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます