第20話 犯行過程 撒き餌

彼は肉片と化した中嶋とジェラルミンケースを乗ってきた車に乗せた。

「次は遺体焼却だ、完全犯罪まであと一歩だ、フフ」

まるで子供のような無邪気さに恐怖を覚えた、だがその一方でもう次の犯行が頭の中で過ぎる自分自身にも恐怖した。

「車で私の後についてきてくれ」

男の指示通りに私は自分が乗ってきた車に乗り彼の後を追った。

1時間ぐらい追走し周囲は住宅地はなく鬱蒼とした山中に入っていた、山中にひっそりと佇むほぼ廃墟といっても過言ではない別荘に彼は停車した、私も車を止めて彼に駆け寄りここはどこかと尋ねた。

だが当の本人はスポーツバッグを車から降ろし別荘に負けないくらい古びた焼却炉の前に向かいスポーツバッグから肉片が入ったゴミ袋を取り出し焼却炉に放り込んだ、ガソリンらしき液体燃料をゴミ袋に撒きマッチで火をつけた。

ビニール諸共燃えているせいかドス黒い煙が焼却炉の煙突からもくもくと出ている。

「ここで話すのもなんだ、中に入って話そう」

彼が別荘を指差す、もうここまで来たからにはあとには引けない、彼が私に近づいたのは間違いなく4、でなければこんな大層な殺人を立案するはずがない。

「……わかった」

私は利用されるのも覚悟で彼の誘いに乗ってみることにした。

「少しカビ臭いが我慢してくれ」

どうやら電気とガスは通っているらしく明かりがついた、別荘と言うほど大きな設備ではなくロッジと言った方が正しいか、

「如何だったかな?私の殺人トリックは?死体処理はもうちょっと念入りにしたかったが硫酸漬けとか用意するのも中々難しいからね」

私はどうやらとんでもない男に目をつけられたようだった。

「あの団地は2、3日で取り壊されて証拠は瓦礫の中に埋もれる」

そう言うと彼はマークが書き込まれた地図を私の目の前の机に広げた。

「あの団地と同じ仕組みを後3つ用意した」

マークがされているところを指差す。

「残りの3人もあれの要領で殺すのか?」

同じ仕組みとは恐らくあの最上階から1階まで繋げた落とし穴のことだろう。

「そうだとも、次からは1人でも大丈夫だ」

そういうと彼はトリックに必要な道具と手順を簡潔にまとめてくれた。

①部屋のフローリングと近い柄のベニヤ板

②ピアノ線の張り巡らされた木枠

③ビニールシート

④ゴミ袋

⑤スポーツバッグ

「この5つの道具が必要になる」

彼は紙を取り出し順に書き出した。

1、実行前夜にフロア1階の天井にあたるところに②を設置。

2、1階の床にビニールシートを敷く、壁に跳ねる可能性があるので壁側にもまわるように敷き詰める。

3、5階へ上がり、穴の上にあらかじめ団地の床材と同じ色に似せたベニヤ板を被せる。

4、深夜にターゲットを呼び寄せ携帯で罠の部屋に呼び寄せる。

5、肉片になったターゲットをブルーシートで包み二重のゴミ袋に入れしっかり縛る。

6、ゴミ袋とベニヤ板をスポーツバッグに入れて現場を離れる。

「ターゲットは残り三人、時間は限りある」

「次は誰を殺すんだ?」

「それは君に一任しよう」

「残りの奴らはどうおびき寄せる?」

彼の口角が少し上がる。この男、どうやらこの状況を楽しんでいる節がある他人の復讐の為にここまで手の込んだ殺人を計画する彼の真意は未だ解らないがあいつらを始末できるのなら構わない。

「そうだね、中嶋は脅せるネタがあったからアッサリ喰いついた、長丘も叩けば埃が山ほど出るから問題ない、2

「松野と陽道……」

「そうだ、彼らは二人と違い裏の無い人生を送っている、故に彼らを脅すには少し手間がかかる、10年前の件ではシラを切られる可能性があるからね」

「ではどうする?」

「あまり気が進まないかもしれない、正直私もこんな手はなるべく使いたくはないのだが……」

あのような殺人方法を思いつく男が躊躇う手段、間違いなくえげつない方法だ。

「運のいいことに彼らは妻子持ちだ、妻子に罪はないが彼女達を餌にする」

嫌な予感は的中した。

「誘拐するのか?リスクが大きすぎる、他に手はないのか?」

「もっとも確実に彼らを罠に引きずり込むにはこの手が一番だ」

躊躇う私に彼はまるで励ますかのように話しかけてくる。

「いいのかい?君ももう長くないのだろう?」

「気づいていたのか?いつからだ?」

「顔色を見ればわかるよ」

やはり裏がある、自身にもリスクのある復讐劇に無料ただ同然で手を貸すのには訳があるはずだ。

「あんたもこのターゲットの中に始末したい奴がいるんじゃないか?」

男が眉を潜める。

「それで?まさか今になってやる気を失ったとでも?」

「いや、殺す一人残らず殺す」

利用されているとしても自分の意思は固かった。

「いいね、実のところ長丘にはある人物からも依頼を受けていてね、もう気づいているだろうが私は復讐屋のようなものでね。その依頼者はもうこの世にはいない、だが私は彼から前金をもらってしまっている、そこで君に白羽の矢が立ったのさ」

男が立ち上がり収納棚からケースを取り出す。

「任務を遂行すればこれを君に授けよう、復讐を成し得なかった彼からの金だ」

ざっと1000万円はあるであろう大金が目の前の机に並ぶ。

「必要ない」

「何故だい?これだけあれば治療費にはなる、助かるかもしれない」

「復讐を成し遂げてのうのうと生きていく気はない」

「そうかい、君の覚悟は本物のようだ」

「だがこの金はもらう、倒産した会社の社員達に秘密裏に渡したい」

「好きに使いたまえ、では本題に戻ろう」

本題、誘拐方法についてだ。

「どうすればいい?」

男は立ち上がり壁にかかったカレンダーをめくり現在の月日を指差した。

「平日に誘拐すればおおごとになりやすい、次の連休と再来週の金曜日がチャンスだ、それ以上になると殺害現場が瓦礫に埋もれてしまう」

「対象は二人とも専業主婦、パートもしていないから発覚まで時間を稼げる」

「警察に通報されたら?」

「そこが問題だね、通報を躊躇させる方法は考えてある」

半ば信じ難いが何か確信があるらしい。

「具体的には?」

「これを使う」

彼はおもむろにzipロックに入った何かを取り出した、中には人の指が入っていた。

「あいつの指か」

「そう、これに誘拐した妻の指輪をはめればどうなると思う?」

「……通報すればただでは済まないとは思う

「そうだ、あとこれを使いたまえ、少し改造してある」

机の上にスタンガンが転がる。

「コツは首筋を狙うこと、心臓あたりは狙うな、最悪死にかねない」

「気絶させた後は?」

「ここで監禁する、食料や暖房はあるから問題ない、全て終われば家に返せばいい」

「わかった、決行は連休……」

カレンダーに目をやる

「明日だ」


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