第6章 犯行経緯

第18話 犯罪計画 始動

あの厚着の男と出会ってから彼からもらった電話番号に電話をする勇気が湧かず1週間が経過した頃、急に体調が悪くなった、 病院の診断結果は腎臓の病らしく良くて1年、短くて半年という余命宣告を受けた。

不幸の連鎖に絶望感が私に押し寄せた、途方にくれる最中、ふとあの言葉が脳裏によぎる。

『全てを投げ打ってでも一矢報いたいのなら』

余命宣告受けてから厚着の男の言葉が脳裏から離れなくなった、あの時のメモを取り出し恐る恐る番号を携帯に打ち込んだ。


トゥルル


トゥルル


トゥルル


ガチャ


「もしもし、ああ、大鳥一色君だね、そろそろ連絡をくれると思っていたところだよ」

3コール目で厚着の男が電話に出た。

「話を詳しく聞かせてください、時間が無いんです」

「……良し、じゃあ今夜だな、深夜0時過ぎに君の中学校時代の思い出の団地に来ては貰えないかな?


そういうと彼は電話を切った。


その夜、私はかつて良く遊んだ松野が住んでいた団地へと足を運んだ、かつての面影はなく表には解体を告げる看板が立て掛けられていた、1週間も立たない内に取り壊されるようだ。

夜闇の中であったが恐怖よりも懐かしさが優っていた、取り外されたブランコ、雨風にさらされ錆びた滑り台、かつての友と過ごした思い出の場所は記憶と同じくらいに色あせていた。

「来てくれたね、来なかったどうしようかと思ったよ」

背後に耳にした声がする、振り向くとあの男がいた、薄暗い夜闇よりその蒼い瞳の方が暗く感じた。

「では君に真実を話すとしよう」

そういうと彼は石造りのベンチに腰掛けた。

「君も薄々感じていると思うだろうが君の恋人を惨殺したのは君の親友をいじめていた奴だ、そしてあの夜、天体観測を知っていたのは?」

彼が言いたいことはわかる、あの天体観測に誘ったのは松野だけだ、彼以外いない。

「松野だ」

「そう、かつての親友だ、そしてこれを見て欲しい、君の彼女に送られたメールだ」

そこには今や珍しいガラケーが写った写真であった、そこには目を疑う内容が記されていた。


『今夜の天体観測は1時間早く行って一緒に大鳥くんを驚かそう』という内容であった、にわかには信じがたい内容だ。

「松野君が使用している携帯を拝借した、データは消されていたが復元してみたら出てきたよ」

「あいつは数日前に行けなくなったといっていた!」

「彼女が1時間も早く来たのはこのメールのせいだってのか!馬鹿げている!!」

「だが現に彼女は来た、そして殺された」

男は座ったまま、だが落ち着きが無い何か焦りを感じているようであった。

「これは推論だが、中嶋が君たちの天体観測の話を知り松野くんを利用したのだろう」

「でも中嶋は何故それをもみ消す必要があったんだ!?」

男が大きくため息を吐く、視線が度々腕元に向く、時計を気にしているらしい。

「中々鈍いな君」

男は持参したカバンの中を漁り出す。

「仕方ない、君に見せるのは余りに残酷だと思ったがこれを見てもらおう、君の確固たる意志にもつながる」

男はカバンからビデオカメラを取り出した。

「音はオフにしておくよ、音声有りあまりに辛い」


男は立ち上がりビデオカメラを再生し、私に手渡す、そして再びベンチに腰掛けた。


あまりに酷い録画内容だった。


開幕から自分は目を逸らした、長丘達が瑞穂を襲う一部始終を録画したものだった。


「……何故こんなものが!!」


耐えきれずその場で嘔吐する、男が背中をさすろうとする手を払いのけ私は男を睨みつける。

「そんな怖い顔しないでくれたまえ、これで彼等が事件の真犯人だと理解してくれたかい?」

ドス黒い怒りが湧き上がる、

「……成績を追い越された、ただそれだけでこいつらは瑞穂の命を奪ったのか!?長丘達や松野を利用して」

「その通りだ」

許せない、中嶋も長丘も!そして親友を裏切った松野も!

「……復讐したいかね?」

「当然だ!!彼女が浮かばれ無い」

男の口元が一瞬歪んだように見えた。

「相手は権力者、法の力ではもみ消されるのが関の山」

男は再びベンチから立ち上がる。

「だが安心したまえ、君に完全犯罪をレクチャーしよう」

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