第15話 刻まれた獅子 推理編

「さて、いきなり厳つい警官達に捕まる心辺りはありますか?大鳥さん」

男は口を噤みうなだれたままだ。

「あなたから話されないなら私からこの連続殺人の顛末を話しましょう」

そういうと廃墟の一室に打ち捨てられた椅子に腰掛ける。

「まず第1の殺人、長丘正章氏の殺害から説明しましょうか?」


「それとも1から説明した方がよろしいですか?」


少し間を空けて鹿屋はそういった。うなだれていた男は顔を上げた、その表情は目を見開き動揺が隠せない様子だ。

続けざまに鹿屋がファイルを取り出し4枚のプリントを廃墟の古びたフローリングに並べた、そこには顔写真とその人物のものと思しきプロフィールが記載されていた。

「私から見て右から仲嶋景、陽道進、長丘正章、そしてあなたのかつての親友、松野善影氏です」

和戸は身を乗り出し鹿屋の指差すプリントの一番左の写真に面識があった、昨夜彼女が気絶させたあの男性だった。

「……」

男は無言のままプリントに目をやる。

「まずあなたは取り壊しの決まっている廃墟団地を探し4つ目星をつけた、どれらも5年前後で入居者もなく野ざらしになっていたものばかりです」

彼女が天井を指差す、だがそこに天井はなく木枠にはめられた格子状のピアノ線らしきものが設置されておりさらに上は5階まで続くように吹き抜けになっていた。


「刑事さん、もう手錠かけておいて下さい抑え込むのしんどいでしょう?」

鹿屋の指摘から望月警部が大鳥に手錠をかける。

「じゃあ舞台装置も整っていることですし実演しましょうか」

そういうと鹿屋が屋外に全員外に出るように伝える鹿屋は急いで5階に向かう。その間に和戸は1階に飛び散った石灰を片付け、新しいブルーシートを敷き直し携帯で鹿屋に準備が出来たことを伝える、準備完了を聞いた鹿屋は五階から顔を出し外に出たギャラリー達に声をかけた。

「ここから1階までは完全に吹き抜けになっています」

そう言うと鹿屋は警察官に取り押さえられている大鳥に視線を落とす。

「大鳥さんあなたは被害者を何らかの方法を使ってこことここと同じ条件を満たす建物に被害者を呼び出しました、しかもなるべく視界の悪い深夜にです」

そういうと鹿屋は麻袋を外にいるギャラリーに掲げて見せた。それは人型とは程遠い代物だったがへのへのもへじで顔がしっかりと書かれていた。

「これを被害者とします、例えば携帯で指示してこの窓から顔を出せと言った指示をすればフローリングとカモフラージュしたベニヤ板の上を歩き五階から一階まで真っ逆さまに転落してします、呼び出す時間を深夜にすればまず足元の罠に被害者は気づけない」

麻袋を放り投げるとベリベリと薄い木材が裂ける音とともに一階へと落ちていった、だが一階にはベニヤ板の破片と麻袋の中身らしき石灰が散乱していた。

「これは!!」

望月警部が声をあげる、ぶちまけられた麻袋の中身は正にあの惨状と同じ状態であった。

「そう、これこそがサイコロステーキの正体です、五階から一階程度なら被害者が生存する可能性があります、だから一階の天井にあたる部分に頑丈なピアノ線を張り巡らした木枠を設置した」

状況を説明し終えると鹿屋は窓から顔引っ込め一階に降りる、手には土囊袋を微塵切りにした木枠が折り畳まれていた。

「ピアノ線と木枠は折りたたみが可能ですスポーツバッグに入れるのも容易なほどにね」

そういうとギャラリーに一階に来るように指示する。

「長丘正章氏が殺害された現場に残されていたブルーシートはこういう風に使う為に用意したのでしょう」

鹿屋はブルーシートの四方を手繰り寄せ袋になるように包み、更にそれをゴミ袋に仕舞った。

「そうかあのトラップは被害者を確実に亡き者にするだけじゃなくの物でもあったのか!!」

望月警部が補足する。

「更に解体予定のある建物で犯行を行えば僅かな血痕も瓦礫に埋もれて証拠隠滅も狙えます」

望月警部の補足に鹿屋が更に付け足す。

「大鳥さんあなたがこのトリックを使い被害者を殺したまでは良かった、だが長丘正章氏を殺害する際に思わぬ誤算が生じます」

「……そうか!あそこで起きたコンビニ強盗騒ぎだ!」

今度は和戸が声を上げる。

「そう、この廃墟団地の近くのコンビニで警察官が強盗犯を捕まえる大捕物が発生しました、あなたは死体を回収しに来たがその騒ぎでそれが出来なかった、人だかりの中を肉片の詰まったスポーツバッグを担いで通り過ぎるのはリスクが高すぎますからね」

和戸は自身のメモを確認した、あの大捕物の最中に大鳥が持つスポーツバッグと似たバッグを持った男が通りすがった複数の目撃証言があった。

「事前の調べであなたの持つそのバッグとそっくりなバッグを担いでいた男の複数の目撃証言もあります、なんならそのバッグを調べさせてください、少なからず出るはずですよ三人の被害者の血痕が」

大鳥から取り上げたバッグを指差す。


抵抗は無駄だと悟ったのか大鳥がゆっくりと口を開いた。


「あぁ、そうさあんたが言う通りだ」

大鳥の語気が強くなる、その言葉の一つ一つに計画を成し遂げられなかった無念がひしひしと聴く者の耳に響いた。

「これは私の復讐劇さ、私の大切な人を売り、命と尊厳を奪った連中へのなぁ!!!」


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